理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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新人理学療法士セッション ポスター
シングル・ケースデザインを用いた脳卒中片麻痺患者に対するロボットスーツHALの効果の検討
鳥谷 将由黒澤 保壽村田 康成井上 愛理鎌倉 みず穂水上 昌文居村 茂幸
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p. Bf1498

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抄録
【はじめに】 近年ロボットスーツHAL福祉用(以下:HAL)の導入施設は増加の一途にあるが,HALを用いての理学療法介入効果を示した研究は少ない.今回,片麻痺患者1名を対象としてシングル・ケースデザインABA法を用いて研究を行い,即時および持続的効果の維持(歩行速度・バランス能力向上)が得られたため,ここに報告する.【症例紹介】 60歳代男性.平成20年7月に広汎な右中大脳動脈領域の脳梗塞を発症.救急病院に搬送されt-PAを施行するも再開通せず,回復期病院を経て当施設のデイサービスを週2日利用している.身体機能・動作能力はBrunnstrom stage:上肢・手指II,下肢IV.感覚障害:表在・深部共に軽度.コミュニケーション:良好.高次脳機能障害:軽度注意力障害.歩行能力:4点杖と短下肢装具で自立.Barthel Indexで90点であった.【方法】 シングル・ケースデザインABA法を用い,平成23年6月から9月までの4ヶ月間実施した.本研究モデルはABÁB´Áとした. 理学療法評価項目は10m歩行速度,麻痺側下肢最大荷重率(以下:麻痺側荷重率),Berg Balance Scale(以下:BBS),Functional Reach Test(以下:FRT),下肢筋力とした.評価は,HAL介入前後に4点杖とT字杖の10m歩行速度を測定.各期(Phase)最終時には前記の理学療法評価項目すべてを測定した(PhaseA・BはT字杖10m歩行速度と下肢筋力は除外してある). 測定は2回行ない,最大値を採用した.また,麻痺側荷重率は体重計を使用して麻痺側最大荷重を5秒間保持出来た値を体重比で求め,下肢筋力はベルト付きハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μ-Tas MT-01)を用い,最大値(kgf)を体重比で求めた. 介入方法は,PhaseA(Á)を1ヶ月間のベースライン期として,従来までデイ・サービスで行なっていた筋力トレーニング,立ち上がり,歩行,関節可動域訓練を実施した.次にPhaseB(B´)は,介入期として,HALを用いた歩行および荷重訓練を約40分程度,1週間に2回,2週間実施した.HAL装着時にはセラピストが適宜調整を行い,PC画面上より安静・歩行時の荷重変化をフィードバックした.【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に従って対象者に同意を得た.【結果】 結果はPhaseA→B→Á→B´→Á(T字杖・下肢筋力のみÁ→B´→Á)の順で示す.4点杖10m歩行速度:52→51→40→42→37秒,T字杖10m歩行速度:54→47→40秒,麻痺側荷重率:80→86→85→89→88%,BBS:41→42→42→44→44点,FRT:22→24→24→28→28cm,下肢筋力(右/左):46/22→45/19→54/21%とすべての評価で向上を認めている.HAL介入前後における,介入直後の4点杖歩行速度はPhaseB平均+0.4秒,PhaseB´平均+1.9秒,T字杖歩行速度はPhaseB´平均-3.3秒であった.【考察】 本研究の介入効果は歩行速度がT字杖では即時および持続的効果の維持が得られ,対して4点杖では持続的効果の維持においてのみ歩行速度の増加を認めた.また,その他の持続的効果は麻痺側荷重率,BBS,FRTの増加を認めており,すべての効果が介入終了後も維持されていた.運動学習において,CramerらによるとRobotics(ロボット工学・技術)は定常的,正確なことから多量投入及び,容易に調節ができる変数であり,しかも定量的評価も同時に可能であることから,行動的介入として有望であると考えられ,HALにも共通する部分が多くある.HALによる正常パターンに近い歩行訓練を行なうことにより,いわゆる片麻痺歩行よりも効率のよい歩行が学習され,10m歩行速度改善が得られたと考えられる.また,PC画面上より荷重量のフィードバックを行なうことで麻痺側下肢への荷重感覚の学習が促され,荷重率の増加と共に,他のBBSやFRTの評価項目向上へも関与している可能性が示唆される.本症例のような慢性片麻痺患者は脳の基質的回復は見込まれにくく, HALによる純粋な運動学習効果であると考える.【理学療法学研究としての意義】 HALによる適応疾患・適応時期の明確化を図ると共に,HALを用いての運動療法適応の指針を示していきたい.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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