抄録
【目的】 腰痛教室における報告は、主に参加当日の疼痛や身体機能、教室の満足度について述べているが、その内容も集団に向けた講義と体操の画一的なものが多く、また身体機能や症状を経時的に追った報告も少ない。当院での腰痛教室は、各患者に適した自己管理方法による腰痛予防・改善を目的とし、医師と理学療法士による機能解剖学と腰痛メカニズムの概説やスタッフによるデモンストレーションを伴った集団体操を行っている。またその際、理学療法士が患者に同伴し、患者各々の身体特性に適した体操を個別指導している。本研究の目的は、当院における個別運動指導を含んだ腰痛教室の効果を身体機能と日常生活活動の点から比較検討することである。【方法】 対象は、2010年7月~2011年9月に当院に外来通院していた患者の中で、腰痛教室に自発的に参加を希望し、かつ担当医師及び理学療法士が参加を可能と判断した患者61名の(講習定員1回10名)の中から、追跡可能であった20名(男性2名、女性18名、平均年齢72.4±8.0歳)とした。また、対象者は主病名が腰部疾患ではない場合でも、腰部に愁訴を認める場合も含んだ。当院では腰痛教室に先立ち、理学療法士が参加者全員に対して身体機能評価を行い、医師による腰部を中心とした解剖・運動学の概説を約30分間、理学療法士による腰痛のメカニズムについての説明を約30分間行った。その後、集団に対してスタッフによる腰痛体操のデモンストレーション(下肢・腰部のストレッチ、コアエクササイズ)を30分間行い、並行して各患者に理学療法士が同伴し、身体機能評価に基づいた個別運動指導を行った。検討項目は、身体機能評価としてFinger-Floor-Distance(FFD)、Straight Leg Rising angle(SLR)、Heel-Buttock Distance(HBD)、Thomas test、船橋整形外科式体幹機能テスト 、疼痛評価としてNumerical Rating Scale(NRS) 、Roland-Morris Disability Questionnaire(RDQ)、患者満足度とした。患者満足度は日常生活、仕事・家事、スポーツの3項目について、1.非常に満足~6.非常に不満の6段階で聴取した。各項目を腰痛教室当日に評価したデータと、1ヵ月後に外来受診した際に再評価したデータを比較検討し、統計学的分析は対応のあるt検定を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮】 被験者に対しては、研究の全過程において倫理的な配慮や人権擁護がなされていることを十分に説明し同意を得て実施した。【結果】 腰痛教室当日と1ヶ月後を比較して、SLRは78.4°±12.7°から83.4°±10.3°、HBDは8.2cm±7.3cmから5.7cm±5.7cm、NRSは4.0±1.9点から3.0±1.6点、RDQは5.7±4.6点から3.7±3.1点、患者満足度の日常生活の項目は3.4±1.3から2.8±1.1、患者満足度の仕事・家事の項目は3.5±1.3から3.1±1.1といずれも有意に改善していた(p<0.05)。患者満足度のスポーツ・芸能の項目、FFD、Thomas test、船橋整形外科式体幹機能テストにおいて有意差は認められなかった。【考察】 本研究の結果から、腰痛教室による集団的指導に加え参加者各人の身体機能評価に基づいた運動の個別指導が腰痛に対する自己認識を高め、運動の継続や自己管理能力の向上に有益であったものと考えられる。患者満足度(日常生活と仕事・家事の項目)において有意な改善を示した結果は、SLR、HBDが改善されたことで日常生活上の動作改善や腰部へのストレス緩和姿勢への配慮など理論講習と個別指導が有効につながりNRS、RDQの改善へも影響を及ぼしたものと推察される。以上より当院における個別運動指導を加えた腰痛教室の実施方法の有効性が示唆されたものと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より腰痛教室では、従来の集団に対する講義や体操に加え、理学療法士による身体機能評価をもとに各々に適した運動の個別指導を行うことでより効果的な結果を得られるのではないかと考える。