抄録
【はじめに、目的】 腰椎椎間板ヘルニア(以下、LDH)では股関節屈曲位のみならず、股関節伸展位での回旋動作に制限を認める症例をしばしば経験する。2011年度の本学術大会において我々は、LDH男性患者と健常男性の股関節回旋ROMを比較し、LDH男性患者では股関節屈曲90°位での内旋、股関節0°位での内旋・外旋ROMが有意に低下していることを報告した。今回、LDH女性患者と健常女性を比較し、検討を行ったので報告する。【方法】 対象者は健常者女性(以下、健常群)20名(年齢:40.6±12.1歳)とLDHと診断され、LDHの疼痛によるROM測定不能な者を除外した女性患者(以下、LDH群)19名(年齢:45.9±16.9歳)とした。LDH群の責任高位はL2/3が1名、L4/5が8名、L5/6が1名、L5/S1が9名であり、手術適応となった対象者が14名/19名であった。対象者の股関節屈曲90°位での股関節外旋(以下、90°位外旋)・内旋(以下、90°位内旋)、股関節0°位での股関節外旋(以下、0°位外旋)・内旋(以下、0°位内旋)のROMを計測した。測定はゴニオメーターを使用し、股関節屈曲90°位での股関節回旋は日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会制定の方法に準じ、測定した。また、股関節伸展0°位での股関節回旋ROMの測定は膝関節屈曲90°位で基本軸を膝蓋骨より下ろした垂直線、移動軸を下腿中央線として測定した。比較は1.健常群とLDH群の健側、2.健常群とLDH群の患側、3.LDH群の健側と患側で行った。なお、健常者のROMは左右の低値とした。統計処理は対応のないt検定、Mann-WhitneyのU検定を用い、有意水準5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の趣旨を説明し、理解・同意を得た。【結果】 1.股関節屈曲90°位での比較1)内旋 平均は健常群39.5°、LDH群健側41.8°、患側38.9°であり、健常群、LDH群に有意差は認められなかった。2)外旋 平均は健常群51.2°、LDH群健側43.6°、患側39.4°であり、健常群と比較し、LDH群の健側・患側ともに有意に低下していた。2.股関節0°位での比較1)内旋 平均は健常群45.2°、LDH群健側36.8°、患側32.3°であり、健常群と比較し、LDH群の健側・患側ともに有意に低下していた。2)外旋 平均は健常群36.7°、LDH群健側32.8°、患側30.0°であり、健常群、LDH群に有意差は認められなかった。【考察】 本研究ではLDH女性患者は健常女性と比較し、90°位外旋、0°位内旋ROMが低下していた。0°位内旋ROMが低下していたのは唯一、男女で共通していた。0°内旋ROM制限がLDH発症の要因と考えた場合、ROM制限が生じると骨盤前傾・腰椎前弯が減少し、体幹回旋時には腰椎後弯位での腰椎回旋を伴いやすい。急激なあるいは繰り返しの屈曲回旋運動は線維輪に加わるメカニカルストレスを増大させるとの報告もあり、この反復を強いられることがLDHの原因となりうるのではないかと推察される。次に0°位内旋ROM制限がLDH発症後の結果と考えた場合、骨盤前傾・腰椎前弯を減少し、椎間孔を拡大させる逃避性の姿勢による影響が考えられる。つまり、骨盤前傾・腰椎前弯減少により骨盤後傾位となり、0°位での内旋ROM制限が生じると考えられる。また、LDH男性患者では90°位外旋ROMは低下していなかったが、LDH女性患者では90°位内旋ROMが低下していなかった。これは日常生活動作(以下、ADL)における男女の特徴が影響していると考える。男性ではあぐらをかく習慣が多く、女性では割座や女座りをとる習慣が多い。そのため、LDH男性患者では90°位外旋、LDH女性患者では90°位内旋の制限が少なく、有意差を認めなかったのではないかと考えられる。0°位内旋がLDHの原因なのか結果なのか、現在のところ断言はできないが、本研究の結果により0°位内旋とLDHとの関係が示唆されたことから、LDHの予防や再発予防において0°内旋ROMの改善が必要と考えられる。【理学療法学研究としての意義】 LDHの理学療法として股関節回旋ROMを改善することは必須であり、ADLやスポーツ動作における腰部へのメカニカルストレス軽減のためにも重要と考えられる。本研究の結果から、LDH患者における股関節内旋ROMは屈曲90°位でなく、0°位が重要といえる。