抄録
【目的】 アライメントの変化に用いるツールの1つとして、ストレッチポール(以下SP)がある。SPエクササイズの効果として、杉野ら(2006)は脊柱のリアライメントの効果、秋山らは胸郭機能改善(2007)など、姿勢変化に関する報告が散見されている。我々は第46回日本理学療法学術大会で、ベーシックセブン(以下B7)前後で抗重力位での胸椎アライメントには有意な変化が認められないという報告を行なった。この原因として、B7はコアリラクゼーションが主たる目的であること、また立位姿勢保持に必要な腰部骨盤帯の安定性を考慮していないことを考えた。そこで、本研究の目的は、姿勢保持に必要な能力として、腰部骨盤帯の安定性に着目し、B7後にStabilizazion exercise (以下ST)を導入することで、立位胸椎アライメントに影響を与えるかについて調査した。【方法】 対象は現在脊柱に痛みのない健常男性10名(平均年齢26.3±3.5歳)とした。 SP課題には、日本コアコンディショニング協会が推奨しているB7とST8種目を行なった。方法は、B7とSTを連続して行い、その前後でActive SLR test (以下ASLRT)と立位胸椎アライメントを計測した。ASLRTの判断基準としては、Mensの方法に準じて0~5の6段階で評価し、1以上を陽性と判断した。胸椎アライメントの計測には、脊柱カーブを曲線定規:(Flexicurve ruler)を用いて評価し、Lindsey らの方法に準じて、ランドマークは 第7頚椎棘突起と 第5腰椎と第1仙椎棘突起間とした。胸腰椎カーブを紙にトレースし、第7頚椎棘突起から第5腰椎と第1仙椎棘突起の間に直線を引き交わる点を交点とした。第7頚椎棘突起から交点までの距離をthoracic length(以下 TL)、胸椎カーブの頂点から TL に下ろした垂線を thoracic width(以 下TW)として、TWをTLで除した値に100をかけたものを胸椎アライメントKyphosis index(以下KI)とし求めた。これらすべての計測方法については予備研究にて検者内・検者間再現性を検証した。統計学的検定には、exercise前後で対応のあるt検定をおこなった(p<0.05)。【説明と同意】 本研究への参加について説明書および同意書を作成し、研究の目的、進行および結果の取り扱いなど十分な説明を行なった後、研究参加の意思確認を行なった上で同意書へ署名を得た。【結果】 ASLRで陽性と判定した者は、2名であった。B7とST前後でKIに有意差は認められなかったが、ASLRTによって陽性と判断した者ではKIが8.34から7.25と有意に減少した。(P<0.05)【考察】 脊柱リアライメントについての先行研究では、森内ら(2007)が、スパイナルマウスでB7前後の胸椎アライメントを検証しているが、有意な差は認められなかったと報告している。今回の我々の研究においても、全被験者に対するB7とSTでは、有意な差はみられなかった。しかし、腰部骨盤帯の評価を行ない陽性群のみを比較検討した結果、胸椎アライメントに有意な変化が認められた。これは、腰部骨盤帯の安定性が低下している者は、B7でリアライメントされただけでなく、抗重力位で必要な腰部骨盤帯の安定化機構が活性化された為、立位でも脊柱が安定し、胸椎アライメントが有意に変化したと考える。今回の結果から、腰部骨盤帯の安定性が低下している者に対して、抗重力位での脊柱リアライメントを目的とする場合は、B7でのリラクゼーションとSTを含むエクササイズを行なうことが必要だと示唆される。【理学療法学研究としての意義】 SPは臨床上、よく用いられるツールであるが、対象や目的についての研究はあまりされていない。今回の結果から、理学療法のプログラムにSPを導入するときは、腰部骨盤帯の安定性を評価することで、更に効果的なツールとして活用できると考える。