抄録
【目的】 近年、TKAは変形性膝関節症(以下:膝OA)患者の一般的な外科治療として普及し、早期の歩行自立や短期入院の実績も多く報告されている。しかし、術後の痛みや歩容異常、長期的予後に足部変形を認める症例を臨床上経験する。今回、TKA前後の下肢アライメント変化と歩行時の足圧中心(以下COP:Center of Pressure)軌跡の変移についての関連性を明らかにし、特に足部に及ぼす影響をCOPのX軸、前額‐水平軸の変移より検証することを目的とした。その結果、TKA後の足部アーチ低下や足部変形を予測するCPEI(the center of pressure excursion index)評価を提案する。【方法】 対象は平成22年1月~平成23年8月に当院整形外科で膝OAよりTKAを施行した患者18例(男性5例、女性13例、平均年齢は71±9歳)とした。方法は、膝関節アライメント計測にFTAをX線(正面像)よりTKA前後に計測した。X線はTKA治療の一貫として医師の指示の下に放射線技師が撮影し、今回の研究のための追加撮影は行っていない。次に、足圧計を用いてCPEIを導いた。その手順は約9mの歩行路の中間地点に2.4mのシート式足圧接地足跡計測装置ウォークWay(アニマ社)を設置し、自然歩行をTKA前後(術後は独歩レベル到達時)で計測し、データから定常歩行の足跡を抽出し圧力分布解析機能(プレダス)にて各歩のCOP軌跡を得たのち、COP軌跡を正規化しX軸における変移を算出したものをCPEIとした。統計学的処理は対応があるt検定を行い有意水準は5%とした。さらに、膝‐足アライメント変化の関連性をFTAとCPEIの変化率より相関係数にて比較した。次に、CPEIをCOP軌跡の形状より2群に分け検討した。踵接地から直線状にCOPが移り変わるCOP軌跡直線群(CPEI<10%)と、踵接地から緩やかな外側カーブ状にCOPが移り変わるCOP軌跡曲線群(CPEI≧10%)とに分類し、各群のTKA前後の変化を比較した。【説明と同意】 今回の研究にあたり、ヘルシンキ宣言に基づき、研究の主旨を説明し研究参加の同意を得た上で計測を行った。【結果】 FTAは術前平均18±4°、術後平均175±2°と有意差を認めた(p<0.01)。CPEIは術前平均8.5±11.1%、術後平均12.9±8.9%、p=0.68と有意差を認めなかった。FTAとCPEIの変化率は、相関係数r=0.37であった。次にCPEIの各群でのTKA前後の比較では、COP軌跡直線群(CPEI<10%)は術前平均1.3±7.2%、術後平均11.7±8.5%とTKA後にCPEIが増加した(p<0.01)。COP軌跡曲線群(CPEI≧10%)では術前平均19.8±4.7%、術後平均13.5±8.1%とTKA後にCPEIが減少した(p<0.05)。【考察】 今回、TKA前後の下肢アライメント変化をCOP軌跡の変移より検証することを試みた。結果、TKA後にFTAは有意に変化し膝関節アライメントは正常化されたが、CPEIの変化に有意差を認めなかった。また、TKA前後のFTAとCPEIの変化率はやや相関があるという結果であり、膝‐足の関節連鎖の影響は否定できないが、FTA変化が必ずしもCOP軌跡に影響を与えるわけではないことが確認できた。次に、今回の測定結果でTKA前のCPEI平均が8.5±11.1%と全体的に低値であることに着目した。CPEIとは後脛骨筋腱不全症候群(PTTD)の評価に用い、健常人では20±6%・PTTDでは10±4%との報告がある。CPEIが低値であれば、COPが内側変移し足部アーチ機構の破綻が懸念される。今回の対象者である膝OA患者は下肢アライメントが膝内反・後足部回外位からの床面接地となり、前足部の回内動作が連鎖的に引き起こされるため、足部アーチ障害を有しやすいと思われる。さらに、CPEIの各群でのTKA前後の比較において、COP軌跡直線群はTKA後にCPEIが増加しCOP軌跡が外側変移した。これは、術前から足部アーチ障害のある膝OA患者がTKA後に足部アーチの改善が得られること示す。しかし、術後平均11.7±8.5%と決して足部アーチの正常化には至っていないことは留意すべき点である。逆に、COP軌跡曲線群はTKA後にCPEIが減少しCOP軌跡が内側変移した。これは、術前は足部アーチ障害を認めなかった膝OA患者がTKA後に足部アーチ障害を合併したことが示唆された。TKA施行よりFTAが正常化されたとしても、CPEIが減少しCOPの内側変移から足部アーチ障害を有せば、足部の崩れが上位関節へのアライメント異常を引き起こす。TKA後の痛みや歩容異常・足部変形などは、CPEIの低値が誘因となり他部位へ波及したメカニカルストレスであることも考慮すべきである。従って、TKAのリハビリテーションではCOP軌跡の評価(CPEI)を行い、足部運動やテーピング、足底板といった足部へのアプローチを組み込むことで、術後の足部変形の予防、歩容の改善に寄与できるものと考える。【理学療法学研究としての意義】 TKA前後の下肢アライメント変化を診る上で、足圧中心軌跡の評価(CPEI)は有益であると考える。