抄録
【目的】 大腿骨頚部骨折(以下、頚部骨折)の予後不良因子としては、様々な帰結研究によって年齢、認知症、受傷前の歩行能力などが報告されている。しかし、回復期リハ病棟に転入してくる頚部骨折患者の中には、複数の不良因子を同時に抱えるものも多いことなどから、入院後早期に歩行のゴールを設定することに難渋する場合も少なくない。そこで今回、認知機能低下を合併する高齢頚部骨折患者を対象に、受傷前の生活機能や入院時の認知機能にも着目して、入院後可及的早期に歩行の自立予測を行なうためのアセスメントシートの策定を試みた。【方法】 対象は、平成20年4月1日~23年8月31日迄に当院回復期リハ病棟を退院した頚部骨折患者の内、65歳以上、入院時MMSEが23点以下、かつ受傷前に屋内歩行が自立していた97名とした。診療録より属性、受傷前生活機能{障害老人の日常生活自立度(以下、自立度)、痴呆老人の日常生活自立度(以下、痴呆度)、歩行能力}、入院時評価{認知機能(MMSE、痴呆度、随伴症状の有無)、基本動作・ADL能力、尿失禁の有無}、退院時病棟歩行能力を調査した。尚、動作能力は自立・見守り・介助・非実施の4値で評価し、退院時病棟歩行能力は自立群か非自立群(見守り・介助)に分類した。また、受傷前とは受傷日から溯り2週間以内の状態を評価した。(1)自立・非自立群を目的変数とし、年齢、受傷前生活機能、入院時評価を説明変数としたt・χ2検定を行い、病棟歩行自立・非自立の関係因子を分析した。(2)同じ目的変数で、受傷前生活・入院時認知機能を説明変数としたパーティション分析を行い、病棟歩行自立・非自立の関係因子を分析した。(3)同じ目的変数で、(1)、(2)の病棟歩行自立・非自立の関係因子を説明変数としたロジスティック回帰分析を行い、変数選択はステップワイズ法による変数増減法でモデル選択を行った。尚、統計解析にはJMPver9を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究を行うにあたり当院の倫理委員会の承諾を受けた。【結果】 対象の平均年齢は83.1±7.1歳、男性22名、女性75名、入院期間は68.6±16.7日、自立群は53名(54.6%)、非自立群は44名(45.4%)であった。(1)t・χ2検定の結果、2群間に年齢は有意差を認めず、受傷前生活機能では自立度、痴呆度、屋外歩行能力で有意差を認めた。入院時評価ではMMSE(日時の見当識、遅延再生、図形模写)、痴呆度、随伴症状の有無、歩行を除く基本動作・食事を除くADL能力、尿失禁の有無で有意差を認めた。(2)パーティション分析の結果、受傷前生活機能では第1ノードで痴呆度(ランク2b以上と3a以下で分岐)が選択され、次いで屋外歩行能力(自立・見守りと介助・非実施で分岐)が選択された。また、入院時認知機能では第1ノードで痴呆度(2b以上と3a以下で分岐)が選択され、次いで2b以上ではMMSEの遅延再生(2点と1点以下で分岐)が、3a以下ではMMSEの場所の見当識(4点と3点以下で分岐)がそれぞれ選択された。(3)ロジスティック回帰分析のステップワイズ法による変数選択の結果、受傷前痴呆度2b以上かつ屋外歩行能力自立・見守り、入院時痴呆度2b以上、随伴症状の有無、上衣更衣能力、尿失禁の有無の5項目がモデル選択され、さらに尤度比検定の結果、受傷前痴呆度2b以上かつ屋外歩行能力自立・見守り(p=0.0002、オッズ比15.1、95%CI3.4~94.9)、尿失禁の有無(p=0.0008、オッズ比8.6、95%CI2.4~36.0)で有意差を認めた。【考察】 頚部骨折患者全般を対象とした我々の先行研究では、約8割が受傷前と同様に屋内歩行が自立していた。認知機能低下を合併する高齢者に限定した本研究では約5割の結果となり認知機能低下が予後不良因子であることや、他の先行研究と同様に歩行の自立には入院時の尿意や動作能力、受傷前生活機能が関係したことが再確認された。今回は、さらに受傷前の生活機能や入院時の認知機能にも着目して分析したところ、受傷前、入院時ともに痴呆度がランク3a以下では歩行自立が再獲得され難く、歩行自立の基準として受傷前の痴呆度2b以上かつ屋外歩行が見守り以上といった因子が示された。そして、特に関係する因子としては、受傷前では痴呆度2b以上かつ屋外歩行見守り以上、入院時では痴呆度2b以上、随伴症状無し、上衣更衣自立、尿失禁無しが抽出された。しかし、オッズ比の信頼区間の幅が広く各項目の重みづけをするには至らなかった。今後、前向きコホート研究によりデータを蓄積し、先行研究で関与が示されている既往症等の要因も加えて検討を続けアセスメントシートを完成させたい。【理学療法学研究としての意義】 認知機能低下を合併する高齢頚部骨折患者の歩行自立関係因子が抽出され、客観的かつ効率的な歩行自立アセスメントシート作成への第一歩となったと考える。