理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
多関節運動連鎖に重点をおいた運動療法の効果に関する人工膝関節全置換術後を対象とした無作為化比較試験
武藤 智則大熊 一成金村 尚彦高柳 清美五味 敏昭
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p. Ca0246

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抄録
【目的】 変形性膝関節症(膝OA)や人工膝関節全置換術(TKA)を施行した症例は膝伸展筋力の低下が指摘される.そのため膝OAやTKA後の大腿四頭筋EXは歩行能力,運動機能と関連を認め,一応の効果が示されていることにより在来の理学療法(Traditional EX)の一つとして広く普及している.一方で近年,運動器疾患患者に対して多関節運動連鎖の視点から見た運動療法が注目され,その必要性,重要性が井原ら(2008)により報告されている.木藤ら(2008)は運動器疾患患者や高齢者の前額面上での姿勢戦略について,立位Pelvic戦略から立位HAT戦略への動作対応の変化が多く観察されるとしている.また膝OAの場合,運動様式のバリエーションが少なくなり,活動を行うときに容易に対応できる動作様式を用いる特徴があると述べている.TKA後早期の動作様式においても同様のことが考えられ,動作は協調性,多様性に欠く状態にある(M.C. Boonstra et al;2007),姿勢制御において大きな欠損がある(Gerome C. et al;2010)ことなどが報告されている.これらの状態にあるTKA後の患者に対し,姿勢・動作様式の問題を軸に理学療法戦略を組み立てていく必要があり,多関節運動連鎖としての姿勢制御に重点をおいた運動療法介入が必要となると考えられる.本研究の目的は膝OAによりTKAを施行した症例を対象とし,多関節運動連鎖に重点をおいた運動療法(MCMJ EX)の効果を無作為化比較試験により検討することである.【方法】 対象は当院にて膝OAによりTKAを施行した神経疾患及び他の運動器疾患のない患者30名(MJMC EX群15名,Traditional EX群15名)とした.対象を無作為にMJMC EX群とTraditional EX群の2群に分け,関節可動域練習や歩行練習などの運動療法のほかに,MJMC EX群は荷重下での(立位Pelvic戦略による)立位重心移動,Forward Lunge位からの荷重下膝伸展動作,患側片脚立位での健側股関節外転運動など多関節運動連鎖に重点をおいた運動療法を施行し,Traditional EX群はSLRやLeg Extension Exercise,Leg Curlなど非荷重下単関節運動での筋力強化練習を中心に行う在来の理学療法を施行しそれぞれの理学療法介入が及ぼす影響を比較した.評価項目は動的姿勢バランスの指標として姿勢安定度評価指標(IPS),術側への立位重心移動時の前額面上での姿勢戦略(両肩峰・両大転子・両外果の中央点を結ぶ線分のなす角度),膝伸展筋力(Biodex System3を使用しIsokinetics 60deg/secでの体重比トルク(%BW)の最大値)とし,測定時期はTKA術前,退院時とした.統計解析はSPSSver15.0Jを使用し,術前の群間差をMann-Whitneyの検定とx2検定,2群間の退院時の結果の差は2標本t検定で解析した.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮】 当院および埼玉県立大学倫理委員会の承認のもと,対象者には口頭にて説明を行い,文書にて同意の得られた患者を対象とした.【結果】 術前の2群間において,年齢,BMI,性別,術側,IPS,前額面上の姿勢戦略,膝伸展筋力に有意差は認めなかった.また術後在院日数はMJMC EX群23.3日,Traditional EX群26.1日であり有意差は認めなかった.術前と比較した退院時の変化量において,IPSはMJMC群+0.19(術前1.22,退院時1.41)がTraditional EX群-0.28(術前1.19,退院時0.91)より有意に大きく(p<0.01),前額面上の姿勢戦略はMJMC EX群+6.9°(術前172.2°,退院時179.1°)がTraditional EX群+0.3°(術前173.1°,退院時173.4°)より有意に大きかった(p<0.01).膝伸展筋力は2群間において有意差を認めなかった.【考察】 TKA術後早期における多関節運動連鎖としての姿勢制御に重点をおいた運動療法介入を無作為化比較試験により検討した報告は見当たらない.本研究では動的バランスの指標であるIPSにおいてMJMC EX群はTraditional EX群と比較し有意に改善した.これはMJMC EXがTKA後早期における動的バランスの改善に有効である可能性を示唆している.また前額面上での姿勢戦略においてMJMC EX群は術前の立位HAT戦略から立位Pelvic戦略に近い動作様式への変化が観察された.これはTKA後早期における多関節運動連鎖としての姿勢制御に重点をおいた運動療法介入は,前額面上での姿勢戦略において退院時という比較的早期に変化を表していて,その必要性,有用性を示唆している.今後はさらに経時的に調査し,他の因子との関係性なども含めて検討していく必要性があると考える.【理学療法学研究としての意義】 TKA後における多関節運動連鎖としての姿勢制御に重点をおいた運動療法介入を無作為化比較試験により検討した報告は見当たらず,TKA後早期における動的バランスの改善や姿勢戦略の学習に有効である可能性が示唆された.TKA後患者の理学療法プログラムを立案する上で多関節運動連鎖としての姿勢制御に重点をおいた運動療法介入を考慮していく必要性が示唆された.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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