理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
ジャンプ着地前の筋活動ピーク時間とハムストリングス/大腿四頭筋トルク比との関係
粕渕 賢志唄 大輔藤田 浩之福本 貴彦
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キーワード: ジャンプ, 前活動, HQ比
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p. Ca0254

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抄録
【はじめに、目的】 近年、膝前十字靭帯(以下 ACL)の損傷予防を目的に、損傷のリスクが大きいジャンプ着地時の研究が行われている。神経筋コントロールの限界を補うものとして、前活動という機能がある。我々は片脚着地時において、内外側ハムストリングスの前活動と着地時の膝屈曲角度の関係を調査したところ、筋活動ピーク時間が速いほど膝屈曲角度が大きくなることを第51回近畿理学療法学術大会にて報告した。しかし前活動と筋力の関係の報告はなく、筋力により前活動が変化するのかは不明である。また筋力トレーニングの適切な目標設定ができるように、膝関節の正常なハムストリングス/大腿四頭筋トルク比(以下 HQ比)を決定する必要があると考えている。そこで本研究の目的は、内外側ハムストリングスの前活動とHQ比に着目し、前活動が最も早くなるHQ比について調査することとした。【方法】 対象は大学バスケットボール部の健常女性12名とした。いずれの対象も下肢、腰部に整形外科疾患がなく、着地動作時に疼痛がない者とした。着地動作は高さ30cmの台から落下し着地するものとし、3回測定を行った。片脚着地動作に使用した脚は非利き脚とし、全員が左脚であった。前活動の測定には筋電図システムを用い、被験筋は左下肢の半腱様筋、大腿二頭筋とした。筋電図の解析はジャンプ着地する0.2秒前の期間で、筋活動がピークとなる時間を求めた。等速性筋力はSystem3 ver.3.33(Biodex Medical Systems)を使用し、角速度60 deg/s、180 deg/sにて左下肢の求心性膝伸展筋力と膝屈曲筋力を各3回測定し、体重補正した値を用いてHQ比を算出した。統計学的解析は、前活動ピーク時間とHQ比の直線と二次曲線の回帰式、ハムストリングス筋力との相関を求め、危険率を0.05未満で有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H21-2)を得て行った。被験者に対し研究の説明を行い、同意を得た。【結果】 着地前0.2秒間の筋活動量がピークとなる時間は、内側ハムストリングス40.6 ± 32.7ms前、外側ハムストリングス31.3 ± 21.2ms前であった。HQ比は180 deg/sは0.74 ± 0.20であった。前活動ピーク時間と60 deg/s HQ比の回帰式は、直線と二次曲線とも有意な相関は得られなかった。180 deg/s HQ比では、内側ハムストリングスは直線r = 0.640,p = 0.025、二次曲線r = 0.891,p = 0.001であり、外側ハムストリングスは直線r = 0.565,p = 0.056、二次曲線r = 0.740,p = 0.028であった。前活動ピーク時間とハムストリングスの筋力では有意な相関はなかった。【考察】 着地前の筋活動ピーク時間と180 deg/sのH/Q比に、内側ハムストリングスで直線と二次曲線の正の相関が得られ、外側ハムストリングスでは二次曲線の正で相関が得られ、直線では正の相関が得られる傾向にあった。内側ハムストリングスの前活動と180deg/sのHQ比に二次相関があり、前活動が最小値となるのはハムストリングスと大腿四頭筋の筋力比が1.49対2のときであった。また一次相関において正の相関が得られたことから、大腿四頭筋の筋力に対してハムストリングスの筋力が増強され、HQ比が1.49対2よりも大きくなると前活動は早くなると考えられる。また外側ハムストリングスにおいても二次曲線に正の相関が得られ、前活動が最小値となるのはHQ比が1.47対2のときであった。しかし、直線では有意な正の相関は得られなかったが傾向は認められたため、外側ハムストリングスにおいてもHQ比においてハムストリングスが強くなるほど前活動が速くなる可能性が考えられる。よって、最適な筋力比は、着地前の筋活動ピーク時間から考えると1.49対2よりもハムストリングスが強ければよいと考えられる。またハムストリングスの筋力と前活動に相関が得られなかったことから、ハムストリングスのみが向上するだけでは、前活動に影響しないのではないかと考えられる。これはACL損傷後や、損傷予防のための筋力トレーニングの指標とすることができるのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 着地前の筋活動ピーク時間を早くするためには、HQ比に注目する必要があると示された。ACLの損傷予防のためにハムストリングスの筋力強化を行うことは、ACLの張力を減弱させるということだけではなく、前活動を早めるという観点からも重要であるということが示唆された。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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