日本調理科学会大会研究発表要旨集
2021年度大会(一社)日本調理科学会
セッションID: 1A-2
会議情報

口頭発表
さつま砂糖漬け製造メカニズムの解明
−江戸時代の料理集「鯛百珍料理秘密箱」にみる先人の知恵−
*福田 翼小林 聡子辰野 竜平古下 学
著者情報
キーワード: 発酵, 酵母, 味噌漬け, 保存食
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】さつま砂糖漬けは,鯛百珍料理秘密箱(1785年)に記載され,味噌漬け工程と砂糖漬け工程により製造されるタイの保存食である。従来研究成果より,味噌漬け工程は細菌増殖抑制および香りを改善した。一般に,味噌製造に利用される酵母Zygosaccharomyces 属は,発酵により細菌増殖抑制や香りを改善する。同書には「風が入らなければ長期保存可能」という主旨の記述があり,発酵の関与を示唆している。そこで,真菌叢に着目し,さつま砂糖漬け製造メカニズムを検討した。

【方法】さつま砂糖漬け製造は,まず,マダイを塩干し,滅菌ガーゼに包み,味噌に漬け込んだ。酵母利用の場合,味噌漬け工程後の魚肉と同等の水分および塩分に調整し接種した。魚肉を滅菌容器に入れ,砂糖を添加した。20℃で保存し,適宜,サンプリングを行った。

【結果・考察】味噌より単離された酵母は,Zygosaccharomyces 属の近縁種であった。この味噌を用いてさつま砂糖漬け製造を行った結果,保存期間中の真菌叢はZygosaccharomyces 属が優占となった。一方,味噌漬けを行わなかった場合,他属が優占となった。味噌漬けを行った場合,保存期間中の細菌数は,味噌漬けを行わなかった場合よりも低かった。さらに,においは,味噌漬けを行わなかった場合よりも強かった。そこで,味噌の代替として,味噌およびさつま砂糖漬けより単離されたZygosaccharomyces 属を利用し,さつま砂糖漬け製造を試みた。いずれの酵母においても,保存期間中の細菌数は,未接種よりも低かった。さらに,においは,未接種よりも強かった。したがって,さつま砂糖漬け製造メカニズムは,味噌に含まれる酵母を利用し,保存性や香りを向上させる方法であると考えられた。

著者関連情報
© 2021 日本調理科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top