理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
膝窩部持続伸張が歩行に与える影響
─変形性膝関節症により膝関節伸展制限を呈した1症例を通して─
本間 秀文櫻井 優菅原 裕子畑中 千絵本間 里美藤澤 宏幸安 相煥
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p. Ca0259

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抄録

【はじめに、目的】 日々の診療で、膝窩部の痛みを訴える症例は少なくない。そのような症例に対し、膝窩部のマッサージや持続伸張を行うと、痛みの軽減や歩行がしやすくなることを経験する。また、林(2007)は膝関節伸展制限を伴った膝窩部痛やそれによる歩行障害を訴える症例に対して、膝窩部軟部組織のリラクセーションやストレッチをすることで症状が改善し歩行しやすくなると述べている。しかし、膝関節伸展可動域の歩行への影響や、歩行における膝関節完全伸展の重要性についてのエビデンスは報告されていない。今回、膝関節の伸展制限を伴い、膝窩部の痛みを訴える症例に対して、理学療法(ストレッチ)を実施し、その効果について、客観的なデータをもとに検証したので報告する。【方法】 対象は、80代女性、左変形性膝関節症(Kellgren&LawrenceIV)を10年前に発症し、現在は左膝関節の伸展制限(-10°)を呈している。介入方法は、膝窩部の持続伸張(30秒×10回)とした。対象者の姿勢は背臥位とした。持続伸張の方法は以下の手順で実施した。まず治療者が一方の手で対象者の下腿遠位を背側から把持し、もう一方の手で膝蓋骨を固定しながら、大腿遠位腹側に置いた。この状態から、下腿を把持した手で上方に、大腿部の方は下方に圧迫することで膝関節伸展方向の力を加えた。評価項目は、膝関節の可動域、膝関節の伸展筋力、筋電図、Numerical Rating Scale (NRS)、最大歩行速度とした。膝関節の可動域は自作の定規にて、対象が最大限膝関節を伸ばした際のベッドと膝蓋骨上面の距離(B-P距離)を測定した。また、この時の膝関節の痛みをNRSにて評価した。膝関節最大伸展筋力(μTAS MT-1,アニマ株式会社)は、椅子座位にて、膝関節90°屈曲位で5秒間測定した。また同時に内側広筋の筋電図(Myosystem1200,Noraxson社)を測定した。筋電図解析には、中間の3秒間の波形を用いて、全波整流した後に積分値を算出した。最大歩行速度の測定には7m歩行路を使用し、中間の5mの所要時間を2回測定した。2回測定後、最大値を採用した。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の測定の趣旨を十分説明した上で書面にて同意を得た。【結果】 介入前後のB-P距離は 15.4cmから14.9cmに、NRSは 4から0に、筋電図は0.25mV・sから0.30mV・sに、筋力は43.0Nmから47.2Nmに、最大歩行速度は0.80m/sから0.88m/sにそれぞれ改善した。【考察】 本症例において、膝窩部の持続伸張を実施すると、B-P距離の減少と膝関節痛の改善がみられた。また、筋力測定や筋電図波形の積分値からもわかるように、膝関節伸展筋力の向上も認められた。歩行能力には大腿四頭筋の筋力が大きく関係しており、膝関節に疼痛がある場合、筋萎縮がないにも関わらず、最大筋力は低下し、それに伴って、歩行能力も低下することが知られている。また、藤澤ら(2006)は、高齢者において筋力低下は歩幅の低下に作用し、結果として歩行速度の低下をもたらすと報告している。これらの報告から、本症例は理学療法実施により筋力の回復が図られ、結果として歩行速度が改善したものと考えられる。また、B-P距離が減少したことから、遊脚終期での膝関節伸展が容易になったことが歩幅の増加にもつながり、歩行速度の向上につながったのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 変形性膝関節症に対する運動療法のガイドライン(2009)には膝関節の屈曲拘縮防止と膝関節の安定性確保を目的に、SLR運動やQuad-setting運動が推奨されている。しかし、臨床で用いられる膝関節の伸展ストレッチの効果について具体的な検証がなされていない。今回、変形性膝関節症により膝関節伸展制限を呈した症例に対して膝窩部の持続伸張を行ったところ、内側広筋の筋活動や歩行能力が向上した。このことから、膝窩部の持続伸張は変形性膝関節症に対して重要な介入方法の一つになりうると考えられる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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