抄録
【目的】 我々は第45回日本理学療法学術大会にて、体幹に回旋負荷を生じさせた場合、回旋方向と同側の腹横筋厚には統計的な有意差を認めず(p>0.1)、反対側の腹横筋厚には有意差を認めた(p<0.001)。この結果は、体幹に生じた回旋方向と反対側の腹横筋が活動することを示し、腹横筋が体幹正中化に寄与する可能性を示唆したと考えられる。今回、体幹に側屈負荷を生じさせる事で、腹横筋が左右線維で異なる機能的役割を有するかについて検討したので報告する。【方法】 対象は健常成人男性10名、女性6名の計16名(31.0±10.0歳)であった。計測機器は超音波診断装置(日立メディコEUB-8500)を用い、超音波診断装置の操作に慣れた1名を検者とした。計測肢位は、A:安静立位、B:A肢位より両側上肢90度外転位、C:A肢位より右側上肢90度外転位、D:A肢位より左側上肢90度外転位、E:B肢位にて両手に1kgの重り把持、F:C肢位にて右手に1kgの重り把持、G:D肢位にて左手に1kgの重り把持とし、被験者安静呼気終末の腹部超音波画像を静止画像にて記録した。計測部位は、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3点を通る床と平行な直線上で、肋骨下縁と腸骨稜間の中点とした。本法はわれわれの先行研究で高い信頼性が得られた位置である。記録した超音波静止画像上の腹横筋厚は、筋膜の境界線を基準に0.1mm単位で左右独立して計測した。腹横筋厚については、 (1)A肢位とB肢位、(2)A肢位とC肢位、(3)A肢位とD肢位、(4)A肢位とE肢位、(5)A肢位とF肢位、(6)A肢位とG肢位、(7)B肢位とE肢位、(8)C肢位とF肢位、(9)D肢位とG肢位、による腹横筋厚の違いについて左右独立して比較検討した。統計処理はSPSS ver18を使用し、左右それぞれの腹横筋厚の違いについて、平均値の差(Welch の方法)により有意水準5%未満で検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験にあたり、東京北社会保険病院生命倫理委員会の承諾を得た。また、被験者には、腹横筋評価とエクササイズをより詳細に確立する事を目的とすること、実験方法については十分に説明をし、同意書による承諾を得た。【結果】 1.上肢外転側と反対側の腹横筋厚と安静立位の腹横筋厚を比較した結果、(2)A肢位とC肢位における左腹横筋厚 (3)A肢位とD肢位における右腹横筋厚 (5)A肢位とF肢位における左腹横筋厚 (6)A肢位とG肢位における右腹横筋厚、については、統計的な有意差が認められた(p<0.05)。2.上肢外転側と同側の腹横筋厚と安静立位の腹横筋厚を比較した結果、(2)A肢位とC肢位における右腹横筋厚 (3)A肢位とD肢位における左腹横筋厚 (5)A肢位とF肢位における右腹横筋厚 (6)A肢位とG肢位における左腹横筋厚、については、統計的な有意差が認められなかった(p>0.1)。3. 1kgの重錘を持っていない肢位と持った肢位を比較した結果、(7)B肢位とE肢位 (8)C肢位とF肢位 (9)D肢位とG肢位、における左右それぞれについての腹横筋厚の平均値の差については統計的な有意差は認められなかった(p>0.1)。【考察】 結果1,2より、体幹に側屈負荷を生じさせた場合、側屈方向と同側の腹横筋厚には有意差を認めず、反対側の腹横筋厚に有意差を認めた。これは、第45回日本理学療法学術大会にて、体幹に回旋負荷を生じさせた場合と類似した結果となり、腹横筋が体幹に生じた回旋負荷だけでなく、側屈負荷に対しても体幹正中化に寄与している可能性を示唆したと考えられる。また、結果3より、1kgの重錘の有無について、統計的な有意差は認められなかったが、差が大きくなる傾向にあった。重錘を持つ事で腹腔内圧が高まり、腹横筋機能が促通される事が考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本実験により、上肢の質量負荷という簡便な条件で、左右の腹横筋線維について選択的にエクササイズができる可能性を示した。このことは運動療法の適応を広げたと考えられる。また第45回日本理学療法学術大会で報告した第1報の結果と統合すると、腹横筋は体幹回旋負荷に加え、側屈負荷に対しても左右線維で別々の対応をする運動機能を有することが明確となった。