理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
足関節捻挫受傷後の不安定感の残存が下肢の形態,パフォーマンスに与える影響について
石川 大瑛尾田 敦成田 大一高橋 信人對馬 史織
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p. Ca0944

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抄録
【はじめに、目的】 足関節捻挫(以下,捻挫)は最も多いスポーツ外傷の一つである。先行研究では,捻挫の既往が重心動揺の増大,パフォーマンスの低下を引き起こすと報告されている。これらの研究結果から捻挫を軽視することなく治療する必要性があると考えられる。しかし我々の過去の調査では,捻挫受傷後の病院受診率が低く,早期にスポーツ復帰されているが,約30%がなんらかの愁訴を抱えながらプレーをしている現状であった。また,捻挫既往のある足と,捻挫既往のない足との比較ではパフォーマンスに有意差がなく,捻挫既往の有無だけでなく足部愁訴の残存が捻挫後のパフォーマンスに影響している可能性が考えられた。そこで本研究では,足関節捻挫を受傷した足を対象に,足部愁訴が残存している足とそうでない足とで下肢の形態とパフォーマンスを比較し,足部愁訴が下肢の形態とパフォーマンスに与える影響を検討することを目的とした。【方法】 市内の高校(4校)の女子バレーボール選手41名82足に対しアンケート調査を行い,捻挫の既往ありと回答した23名33足を対象とした(年齢16±1歳,身長160.7±6.9cm,体重50.1±8.7kg)。対象者には足部愁訴の問診と実地調査を行った。問診では,足部愁訴として「プレー中にまた捻挫しそうな感じ(以下,不安定感)があるか」を聴取した。実地調査では足部アーチ高率,Leg Heel Angle(以下,LHA),踵骨外反傾斜角,下腿傾斜角,接地面積,足関節筋力,片脚反復横跳び,重心動揺を測定した。足関節筋力は,ハンドヘルドダイナモメータを使用し,背屈,底屈,内反,外反筋力を測定した。片脚反復横跳びは,30cm幅を片脚にて10往復する時間を測定した。重心動揺では,重心動揺計(anima社製,グラビコーダGS-3000)を使用して開眼での10秒間の片脚立位を測定し,総軌跡長と矩形面積を採用した。足部アーチ高率,LHA,踵骨外反傾斜角,下腿傾斜角,接地面積は両脚立位と片脚立位でのデータを,片脚反復横跳びと重心動揺は片脚立位のみデータを採取した。アーチ高率,LHA,踵骨外反傾斜角,下腿傾斜角,接地面積は,両脚立位から片脚立位へ移行したときの変化量(増加量)を算出した。すべての調査は裸足にて行った。統計処理にはSPSSver.16を使用し,不安定感がある足(以下,不安定足)と不安定感がない足(安定足)とを比較するため対応のないt検定とMann-WhitneyのU検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 紙面にて研究の趣旨を説明し,選手とその保護者から承諾を得られた者を対象とした。なお,本研究は本学医学研究科倫理委員会より承認を得て実施した。【結果】 捻挫既往のあるものは33足で全体の40.2%であった。33足のうち,不安定足は8足で捻挫既往のある足の24%であった。不安定足と安定足とを比較すると,接地面積変化量は不安定足では5.2±3.4cm2,安定足では8.4±3.6 cm2であり有意差が認められた(p<0.05)。また,片脚横跳び時間は不安定足では9.2±1.5秒,安定足では8.0±1.0秒であり,矩形面積は不安定足では10.5±7.5 cm2,安定足6.9±2.2 cm2であり,それぞれ有意差が認められた(p<0.05)。足部アーチ高率,LHA,踵骨外反傾斜角,下腿傾斜角,足関節筋力,総軌跡長においては有意差が認められなかった。【考察】 不安定足における片脚横跳び時間の遅延,矩形面積の増大から,捻挫後の「プレー中にまた捻挫しそうな感じがある」という愁訴(不安定感)の残存はパフォーマンス低下を示唆しているものであると考えられる。また,不安定足では接地面積変化量が安定足に比べ有意に少なかった。接地面積が増加する要因には,足部骨性アーチの低下によるものと,軟部組織ボリュームの増加によるものとが挙げられる。本研究では足部アーチ高率には両群間で有意差がなかったことから,接地面積の増加は軟部組織のボリュームの増加によるものと考えられ,安定足では片脚立位において,より軟部組織量が増大することを示す。つまり安定足では片脚立位でバランスをとるために足底筋群が積極的に活動し,筋ボリュームが増加していると推測されるが,一方で不安定足では足底筋群の活動性が低下しているため,ボリュームの変化が少なかったのではないかと推測される。すなわち,不安定感の存在は足底筋群の活動性低下を示唆するものであり,パフォーマンスの低下を招いている原因と考えられる。しかし本研究では,足底筋の筋活動についての直接的な評価は行っていないため,今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】 本研究から,捻挫後の愁訴をしっかりと捉えることの重要性と,不安定感が残存している足に対する足底筋群強化とバランストレーニングの必要性が示唆された。また,今後前向き研究を続けることで,捻挫の要因となる因子の抽出ができる可能性がある。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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