理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
片脚ドロップ着地45度カッティング動作の3次元動作分析による筋張力シミュレーション解析
安元 裕太郎濱尾 英史山下 智徳酒井 孝文河村 顕治
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Cb0473

詳細
抄録
【目的】 非接触型前十字靱帯(以下ACL)損傷は着地動作や切り返し動作中に好発すると考えられている。Noyesらによると受傷時の肢位として、膝関節屈曲位でのACL損傷は(1)膝関節外反、下腿外旋、(2)膝関節内反、下腿内旋での受傷が多いとされている。我々はドロップジャンプ着地後左右カッティング動作におけるACLへの負荷を、3次元動作解析のデータを元に筋張力シミュレーションにより検証した。【方法】 対象は本研究開始前に下肢外傷の既往がない健常な若年男性9名(年齢:20.9±0.7歳、身長:175±5.9cm、体重:66.8±6.2kg)である。計測開始肢位は高さ30cmの台の上に両脚を肩幅に広げ並行にした状態に設定した。そこから床反力計の正中点に右下肢のみで着地後直ちに45度方向へカッティングを行った。カッティングに関しては左右10 回ずつ行い、その内最もスムーズに動作の行えたデータを各2個ずつ選択した。計測にはリアルタイム三次元動作解析装置MAC3D System(Motion Analysis)、Hawkカメラ8台、Kistler床反力計4枚を用い、得られたデータを元にnMotion musculous Ver. 1.05を用いてそれぞれのカッティング動作時の膝関節角度、膝関節周囲筋筋張力、ACL張力を解析した。nMotion musculousとは、詳細人体モデルに骨格筋の力学モデルを導入し、モーションキャプチャによる運動計測データから被験者の筋活動のシミュレーション解析を行うシステムである。マーカーはHelen Hayes Marker Set(マーカー数29個)に準じて貼付した。解析は各試技にて、接地時から右つま先離地まででACL張力が最大となる時点を基準とした。統計処理は2群において対応のあるt検定を使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は吉備国際大学「人を対象とする研究」倫理規程、「ヘルシンキ宣言」あるいは「臨床研究に関する倫理指針」に従う。また吉備国際大学倫理審査委員会の承認(承認番号10-11)を得て実施した。対象者には本研究の目的と内容に関する説明を行い同意を得た。【結果】 ACL張力最大値は左カッティング動作時は平均200±121.8N、右カッティングでは平均112±58.1Nと左で高値を示した。この時、膝関節角度は屈曲角度では左右とも平均30度で有意差はなかった。両下肢とも下腿内反内旋を示したが、左カッティング動作時の内反角度は平均5.57±4.1度、右では平均0.33±2.0度と左の方が大きく、内旋角度は左で平均1.07±3.5度、右で平均4.49±3.0度と左で小さかった。筋張力については、膝伸筋群については左右カッティング動作において有意差は認められなかった。しかし、膝屈筋群の筋張力については、半膜様筋が左カッティング時では平均13.3±18.0N、右では58.3±45.7Nと右カッティング時に高値を示した。【考察】 カッティング時のACL最大張力は、主観的に遂行が容易と思われる左カッティング動作時の方が右カッティングよりも高値を取るという意外な結果であった。関節角度は、左右とも下腿内旋傾向を示し、右カッティング動作時の方が大きかった。しかし、右カッティング動作時では、左と比較して膝内反角度が小さく、ハムストリングがより高い活動を示した。粟井らは下腿内旋位で張力が高まったACLが、脛骨が外側へのトルクを受け大腿骨に対する外側への剪断力が生じることでACLへの負荷が高まると推察している。古賀らはACL受傷シーンのビデオ解析から、膝外反・内旋が受傷時に起こっており、膝外旋はACL断裂の結果起こるとしている。これらの結果から、右カッティング動作時には下腿内旋がより強まり、ACLへの負荷が増加するが、ハムストリングの筋活動が高まることで大腿四頭筋との同時収縮により膝関節の固定性が高まり、ACLへの負荷が軽減したものと考えられる。今回、被験者が最も安全で自然に行える動作を解析したため、着地肢位がknee out&toe inとなる者が多かった。ACL受傷時の肢位はknee in&toe outが多いとされており、今回の解析では受傷メカニズムの解明には限界がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より、カッティング動作時にハムストリングの働きがACLへの負荷を軽減することが示唆された。したがって、着地動作や切り返し動作時にハムストリングとの協調的な収縮を促すよう指導することで、非接触型ACL損傷の予防につながる可能性がある。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top