抄録
【目的】 腱板断裂に対する治療として保存療法が第1選択されるが、その一方で、腱板断裂症例の中には疼痛や拳上困難を主訴に手術を希望して来院するものも多い。前大会において、腱板断裂の保存療法例と手術移行例では肩甲骨機能が異なること報告したが、今回は手術症例の肩甲骨に着目し、腱板断裂症例の肩関節機能を調査した結果、興味ある知見が得られたので報告する。【方法】 2011年9月末までの2年間に当院整形外科を受診し、初診時に腱板断裂と診断された症例のうち、「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像を撮影し、手術した症例19名(年齢61.05歳±10.29、男性10名・女性9名)と、保存療法症例26名(以下、保存群、年齢66.69歳±15.69、男性16名・女性10名)について調査した。手術した症例については初診時の肩関節拳上120度を基準に拳上不可群(以下、OB群7名)と拳上可能群(OY群12名)に分類した。また、メディカルチェック目的で当院に来院し、肩関節に既往のない12名(年齢平均30.42歳±5.98、全例男性)を対照群とした。「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像のうち肩甲骨面上45度挙上位無負荷像を用い、肩甲骨上方回旋角度(以下、UR角度)、関節窩と肩峰の位置関係(以下、仮想関節面)、acromion index(以下、AI)について、富士フィルム社製計測ソフトOP-A V2.0を用いて計測した。UR角度は任意の垂線に対する関節窩の角度を計測し、仮想関節面は、関節窩を通る円を描出して、肩峰下面と描出した円の位置関係の観察し、円よりも肩峰が下方に位置していると肩甲骨の前傾が強く、上方に位置するほど後傾していると判断した。また、AIはNyffelerらの報告に準じ、関節窩の上下端を結ぶ線から肩峰外側端までの距離(GA)および上腕骨頭外側端までの距離(GH)を計測し、GA/HAをAIの値とした。統計学的処理は、Kruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定を用いて危険率5%にて行い、それぞれについてOB群、OY群、保存群、対照群を比較検討した。【説明と同意】 当院整形外科受診時に医師が同意を得て診療放射線技師によって撮影されたレントゲン像を用いた。なお、個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとした。【結果】 UR角度(°)は21.51±18.01、7.86±15.27、7.8±7.33、0.09±8.05であり、OB群と対照群(p=0.009)、保存群と対照群(p=0.005)で有意差が認められた。AIは0.63±0.08、0.66±0.05、0.65±0.09、0.62±0.05であり、OY群と対照群でのみ有意差が認められた(p=0.004)。数字は測定平均値をOB群、OY群、保存群、対照群の順で示す。また、仮想関節面は、OB群、OY群は肩峰下面が描出した円に対して下方に位置するものが71.4%、66.7%であったが、保存群、対照群は円よりも上方もしくは一致するものが68%、83%であった。【考察】 腱板断裂症例の主訴は、多くが動作時の肩峰下でのインピンジメントが原因であると考えている。腱板断裂という解剖学的破綻は手術で修復されるが、腱板機能が障害されても肩甲骨機能で代償・補償することが可能である。しかし、肩峰の形態よりも傾斜がインピンジメントに関与するとの報告(原ら、1998)もあることから、肩関節の形態が腱板断裂に関与すると考える。OY群のUR角度は対照群と差はなかったが、仮想関節面よりも肩峰が下方に位置しており、肩甲骨の過剰な前傾が手術に至る要因の1つと推測できる。また、OB群も仮想関節面よりも肩峰が下方に位置しているが、UR角度は保存群よりも大きい傾向である (p=0.06)ことから、挙上困難の代償として過剰な肩甲骨の前傾と上方回旋が関与することが考えられる。今回調査したAIは肩峰から上腕骨に付着する三角筋の走行を反映していると考えられ、対照群よりもAIの値が大きくなっていたOY群は、三角筋の運動ベクトルのうち、水平成分よりも垂直成分がより大きくなるため、肩関節運動初期に三角筋による骨頭の上方移動を助長することが推測される。したがって、OY群を保存群に移行するためには、骨頭の上方移動から肩峰を逃がすような運動を促す必要があると考えられる。また、OB群を保存群に移行するためには肩甲骨の過剰な上方回旋の抑制と後傾運動を促す必要があると考えるが、上方回旋を抑制させる筋は上腕骨を後方に動かすために非現実的であると考えられ、AIの値を考慮すると、三角筋を収縮させることで肩関節運動初期には骨頭の上昇を抑制する作用があり、なおかつ肩甲骨は下方回旋方向へ運動するが、上腕骨は拳上方向に動き、肩甲骨の運動を合わせることで肩関節運動が遂行可能になると推測する。ただし、Kellyら(2005)の報告から、運動時には筋活動量を考慮する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果は腱板断裂の保存療法としておこなわれる理学療法プログラム立案の一助となることが示唆された。