抄録
【目的】 信原らは肩甲胸郭関節の動きの異常は腱板断裂を代表とする腱板機能不全によって引き起こされることが多いと報告しているが,腱板断裂の大きさによって肩甲胸郭関節に及ぼす影響の大きさが変わるのかどうかについて調査した報告は少ない. 今回,われわれは,断裂サイズの違いが肩甲骨位置や肩甲骨内側筋の筋活動量に及ぼす影響について調査したので報告する.【方法】 腱板断裂に対しMcLaughlin法を施行されて術後6ヵ月経過した40例40肩を対象とした.手術時平均年齢62.8歳(48~82歳),男性24例・女性16例であった.症例を腱板断裂部の最大径を測定してDeOrio&Cofield分類にしたがってsmall tear8肩(以下,S群),moderate-sized tearは19肩(以下,M群),large tearは13肩(以下,L群)に分類した. 3群間で,手術時平均年齢,性別,罹患側,肩甲骨の位置(内上角~脊椎までの距離:上部SSD,下角~脊椎までの距離:下部SSD),肩甲骨周囲筋の表面筋電図所見および疼痛の有無について比較検討を行った.なお,表面筋電図はNoraxon社製Myosystem1200を用いて,肩甲骨内側筋上部,中部,下部線維を被験筋とし肩甲骨内転の最大等尺性随意収縮3秒間を3回計測した.得られた筋電波形を整流平滑化し,筋電図積分値(以下iEMG)を求めた.得られたiEMGを健側のiEMGにて正規化し,%iEMGを算出した. 統計学的検定は手術時平均年齢,肩甲骨位置,%iEMGは多重比較を行い,性別,罹患側,疼痛の有無はχ2検定を用いて行い,危険率0.05未満を有意差ありとした.【説明と同意】 本研究の趣旨を説明し,同意を得られた患者を対象とした.【結果】 手術時平均年齢,性別,罹患側において3群間で有意差を認めなかった. 肩甲骨位置では上部SSDでは有意差は認めなかったが,下部SSDはM群とL群がS群より有意な健患差を認めた. %iEMGは,肩甲骨内側筋上部線維ではM群とL群がS群よりは有意に高値であり,中部線維では3群間に有意差を認めず,下部線維ではM群とL群がS群より有意に低値であった. 疼痛の有無においてもM群とL群がS群より有意に疼痛を認める症例が多かった.【考察】 moderate-sized tear以上の断裂では手術をしても術後1年では肩甲胸郭関節の動きが正常には回復しなかったという報告もあり,断裂サイズがmoderate-sized tear以上の症例は肩甲胸郭関節の動きが正常化しにくいとされている.今回の結果から,M群とL群はS群より下部SSDの値が大きく,肩甲骨内側上部線維の活動量が高く,下部線維の活動量が低かった.すなわち,術後6カ月以上を経過してもM群とL群はS群より肩甲骨が上方回旋をしており,肩甲骨の胸郭へ固定が不十分な状態にあることが分かった.したがって,moderate-sized tear以上の症例の肩甲胸郭関節の動きが正常化しにくい背景に肩甲骨内側筋の筋活動のアンバランスと肩甲骨位置の異常が関与していると思われた. 以上のことから,moderate-sized tear以上の症例の術後に肩甲胸郭関節の動きを正常化させるには,比較的早期から肩甲骨周囲筋のストレッチや肩甲骨内側筋の使い方の再教育を含むプログラム作成が必要であると思われた.【理学療法学研究としての意義】 断裂サイズがmoderate-sized tear以上の断裂例では,術後に肩甲胸郭関節の動きの異常が残存しやすいが,その背景として今回の結果から肩甲骨内側筋の筋活動のアンバランスと肩甲骨位置の異常が関与しているのではないかと思われた.断裂サイズがmoderate-sized tear以上の症例は肩甲胸郭関節の動きが正常化しにくいとあきらめるのではなく,今回の結果をもとにmoderate-sized tear以上の症例に対する新たなアプローチのきっかけになるのではないかと考える.