抄録
【はじめに、目的】 当大学附属4病院リハビリテーション科では人工膝関節全置換術(以下TKA)を施行した患者の治療および評価の標準化に向け経時的データが蓄積可能な評価表およびデータベースを作成し、評価時期を術前、術後3週、8週、12週に設定しH22年4月より運用を開始している。当大学附属病院のような急性期病院では、在院日数の短縮化により入院患者に対する理学療法介入期間も限られてきており、手段的日常生活活動(以下IADL)への介入機会が少ない現状がある。実際にTKA患者における歩行や日常生活動作についての報告はなされているものの、IADLに関する報告は少ない。そこで本研究では、TKA患者における術後早期のどのような身体・運動機能が退院後IADLに影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とした。【方法】 研究デザインはデータベースからの後方視的調査である。対象はH22年4月からH23年7月までに当大学附属4病院でTKAを施行し、測定項目が評価可能であった患者66例(男性9例、女性57例、平均年齢74.1±8.1歳)とした。ただし再置換術、認知症、プロトコール逸脱症例は除外した。調査項目は術後早期の機能評価として(1)疼痛( Visual Analogue Scale(以下VAS)を使用)、(2)術側膝伸展筋力(アニマ社製μ-TAS F-1を使用し端坐位、膝関節60°屈曲位にて最大筋力を2回測定し最大値を体重で除した)、(3)5m最大歩行時間、(4)Timed“Up and Go”Test(以下TUG)(椅子の背もたれに背をつけた座位を開始肢位とし、できるだけ早く椅子から立ち上がり3m先の目印を回って再び椅子に座るまでの時間を2回計測しその平均値を算出した)を調査した。基礎情報として年齢、また質問紙法にて退院後のIADL能力(立位での家事動作、買い物、公共交通機関の利用の3動作を楽にできる:5点~できない:1点の5段階スケールによる自己記入式で3項目の合計点を算出)を調査した。評価時期は術後早期の機能評価(1)~(4)および年齢を術後3週、退院後IADLは術後8週とした。統計学的分析として、従属変数を退院後IADL、独立変数を術後早期の機能評価項目(1)~(4)および年齢とした重回帰分析を行い、変数選択法はステップワイズ法とした。統計ソフトはSPSS ver.16.0 for Windowsを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当学の倫理委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言に則り行った。【結果】 退院後(術後8週)のIADL能力に影響を及ぼす因子として術後3週のVAS、TUG、5m最大歩行時間が抽出され、標準偏回帰係数はVASがβ=-0.453(p=0.0002)、TUGがβ=-0.549(p=0.0025)、5m最大歩行時間がβ=0.396(p=0.0301)であった。【考察】 本研究結果より、術後早期のTUGは退院後IADLへ及ぼす影響が大きいことが示されたが、これはTUGが起立・歩行・方向転換・着座からなる複合的なパフォーマンステストであるため、様々な動作より構成されるIADLに影響を及ぼすと推察された。VASについては、疼痛の程度が活動範囲に影響を及ぼすと予測されることから、活動場面が屋外となる買い物、公共交通機関の利用との関連が推察できる。しかしながら、5m最大歩行時間はIADLへの影響因子として抽出されたが、影響度は低い結果となった。この理由として、IADLの評価項目に歩行能力とは直接関連がない立位での家事動作が含まれていること、さらに5mという短距離の歩行能力では、長距離歩行が必要とされる買い物などの屋外活動への影響度が反映されにくいと考えられること、以上のことから、今回のIADL3動作の合計点への影響度が低い結果になったと考える。今回、TKA患者における術後早期のどのような身体・運動機能が退院後IADLに影響を及ぼすのかを立位での家事動作、買い物、公共交通機関の利用の3動作の合計点を用いて検討した。しかしIADLはその動作によって様々な要素が含まれるため、今後はIADLの動作ごとに身体・運動機能との関連を検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 在院日数の短縮により長期的な理学療法介入が困難な状況であるため、入院患者への理学療法では早期自宅退院へ向けて在宅ADLの獲得が優先されIADLへの介入の機会は少ないと考える。今回、TKA術後患者を対象に入院中に評価可能なTUGと買い物や家事動作などのIADLとの関連性が示されたことから、入院中からTKA術後患者のIADL能力が予測できる可能性が示唆された。