抄録
【はじめに、目的】 術前の関節可動域(以下:ROM)は術後獲得されるROMに影響するが,術前ROMだけで術後6週のROMを予測するのは困難である.我々は,第46回理学療法士学術大会において,術前ROMをもとに140°以上を良好群,120°以上140°未満を中間群,120°未満を不良群とした3群について,いずれの群も術後ROMの回復率は術前ROMの影響を受けないことを報告した.さらに回復傾向については,術後1週~2週の間に全回復の約50%,2週~3週の間に約25%が回復し,術後3週までに全回復の約75%の回復が期待される.また,3群の回復傾向に有意差が無いことから,術後3週の膝屈曲角度を用い,術後6週の屈曲ROMは式:(術後6週ROM)=32.6+0.75×(術後3週ROM)により概ね予測できることも報告した.しかし,190関節において13.2%が予測値に到達しなかった.本研究では術後6週ROMのROM実測値が回復予測式に到達しなかった患者のROM回復経過を分析し,その傾向を後方視的に検討することを目的とした.【方法】 対象関節は190関節(変形性膝関節症122関節,慢性関節リウマチ68関節)であった.術前から術後6週まで,1週間ごとに計7回の屈曲ROMを計測した.予測式をもとに,術後6週のROM実測値と回復予測値との解離が+5°以上をAbove群(以下:要素A)25関節,±5°未満をPer群(以下:要素P)140関節,-5°以下をBelow群(以下:要素B)25関節に分類して構成比率を確認した.また,術前ROMをもとに良好群(n=66),中間群(n=67),不良群(n=57)に分類した3群についてもそれぞれ3要素に分類して傾向を分析した. 実測ROMと予測値が解離する原因を検討するために,要素B(25関節)について,解離値を目的変数,術前伸展ROM・術前屈曲ROM・術後6週屈曲ROM・術後1週から6週までの全回復ROMを説明変数とした変数減少法による重回帰分析を行った.統計処理は有意水準を危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には術後の経過把握を目的に測定を行うとともに,本研究において測定結果を利用することを説明し同意を得た.【結果】 全体群および3群について要素別の構成比率を見ると,全体群では要素Aが13.2%,要素Pが73.6%,要素Bが13.2%であった.3群については中間群では要素Aが16.4%,要素Pが71.6%,要素Bが12.0%で,全体群とほぼ同様の比率であった.良好群では要素Aが16.7%,要素Pが78.8%,要素Bが4.5%と要素Bが少ない傾向を認めたが,不良群では要素Aが5.2%,要素Pが70.2%,要素Bが24.6%と要素Bが多い傾向を認めた.また,要素Bにおける不良群の割合は56%であった.要素Bについて重回帰分析を行った結果,変数減少法により術前伸展ROMと術後屈曲6週ROMが抽出され,重相関係数0.57,決定係数0.32の有意な相関を示した.【考察】 術前の屈曲ROMが不良なものは予測値を下回る傾向を認めた.また,要素Bの解離値と術前伸展ROMとの間に弱い正相関を認め,重回帰分析の結果から術前伸展ROM制限が解離値に影響を及ぼすことが確認された.人工膝関節置換術後における膝関節の支持性は,靭帯や関節包などの軟部組織に依存するため,術前の伸展制限が強いということは軟部組織の伸張性が低いことが考えられる.これが,術後のROM回復に影響したものと考える.術前の屈曲ROMが不良なものは術後も屈曲ROMの獲得が難しいだけでなく,さらに伸展制限を認める症例についても術後の屈曲ROM獲得が難しく,予測値を下回る傾向にあることを念頭において予測式を用いる必要がある.【理学療法学研究としての意義】 術前の屈曲ROMが不良であり,且つ,伸展制限が重度の患者では予測値に到達できない可能性があることを念頭において訓練やADL指導を実施する必要がある.