理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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人工膝関節全置換術後早期における屈曲角度予測の検討
小森 直樹渡部 裕之熊谷 雄介長谷川 静香水谷 羊一片岡 洋一皆川 洋至田澤 浩
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p. Cb0717

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抄録

【はじめに、目的】 人工膝関節置換術(TKA)は、術後の早期社会復帰には、術後早期の機能回復、特に良好な膝関節屈曲可動域の獲得は必須である。我々は以前、早期からの積極的な可動域練習が、より大きな屈曲角度を得ることを報告した。しかし、どの時期にどの程度の屈曲角度を確保していれば、目標屈曲角度に到達し得るのかの報告はみられない。本研究の目的は、TKA施行後、目標屈曲角度の獲得を術後早期に予測できるか検討することである。【方法】 対象は2010年7月から2011年9月の間に、当院にてTKAを施行した161名250膝である。平均年齢は73.7±6.9歳、対象疾患は全例変形性膝関節症、平均在院日数は21.5±6.4日であった。ほぼ全例で術後麻酔下屈曲140°が確認されていたため、退院時目標屈曲角度を全例140°に設定した。目標達成群と目標非達成群の2群に別け、術後3日、術後1週での屈曲角度のカットオフ値をReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線を作成し求めた。さらに術後3日、1週でのカットオフ値でそれぞれ別け、術後3日達成群、術後3日非達成群、術後1週達成群、術後1週非達成群とし、術後3日達成群と非達成群の2群間、術後1週達成群と非達成群の2群間において、それぞれ対応のないt検定を用いて比較検討した.さらに、各群について退院時屈曲可動域との相関分析を行った。統計検定の有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象患者には、測定において十分に説明を行った。【結果】 退院時目標屈曲角度140°を獲得するための最適カットオフ値は、術後3日で105°(感度0.740、特異度0.671)、術後1週で130°(感度0.591、特異度0.845)であった。ROC曲線下面積は、術後3日で0.775、術後1週で0.760であった。また、術後3日屈曲角度は、105°達成群が115.5±8.7°、非達成群が94.8±8.4°、術後1週屈曲角度は、130°達成群が133,7±4.9°、130°非達成群が114.3±11.2°であった。それぞれ2群間で有意差を認めた。退院時屈曲角度は、術後3日105°達成群で142.6±6.4°、非達成群で134.9±11.4°、術後1週130°達成群が144.0±5.3°、非達成群が136.5±8.9°であった。各群と退院時屈曲可動域の相関係数は、術後3日達成群が0.383、非達成群が0.635、術後1週達成群が0.280、非達成群が0.523であった。【考察】 術後3日、術後1週共にROC曲線下の面積は0.7を超えており、カットオフ値は中程度の精度があった。術後3日で屈曲105°、術後1週で屈曲130°を獲得することは、退院時屈曲140°を獲得するために必要であることを示している。しかし、術後3日105°達成群、術後1週130°達成群共に、退院時屈曲角度との相関は低く、非達成群と退院時屈曲角度との相関は比較的高かった。達成群に関しては、術後麻酔下での屈曲角度までは獲得できるが、それ以上の屈曲拡大はばらつきがあることを示しており、屈曲角度制限として一般に広く言われている術前角度の影響などがあると考えられる。非達成群に関しては、術後早期に膝関節伸展機構の可動性が十分に得られず、創傷治癒過程における瘢痕化による癒着が起こり、その後の可動域が制限されていると考えられる。したがって、今後は術後早期に屈曲角度を制限する因子とその影響度を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 術後早期からその後の可動域の回復度合いを予測することは、目標に達しないと予想される症例に対して、重点的に可動域改善に対しアプローチすることを可能とし、目標値に達する症例の割合を向上させることが出来ると考える。良好な可動域獲得が、術後社会復帰の中で、より高いQOLを獲得することにつながると思われる。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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