理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
人工膝関節全置換術患者におけるH/Q比と歩行時間の関係についての検討
五十嵐 祐介平野 和宏田中 真希石川 明菜姉崎 由佳桂田 功一樋口 謙次中山 恭秀安保 雅博
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Cb0718

詳細
抄録

【目的】 当大学附属4病院リハビリテーション科(以下4病院)では人工膝関節全置換術(以下TKA)患者における評価表を作成し4病院で共通して運用している。このTKA評価表では術前・術後3週・術後8週・術後12週と測定を行っており、その測定項目にHand-Held Dynamomater(以下HHD)による筋力測定がある。先行研究ではTKA患者における膝関節筋力と歩行時間に関する報告は多くなされており、伸展及び屈曲最大筋力が強いほど最大歩行時間が速いとされている。一方、H/Q(ハムストリングス/大腿四頭筋)比では経過における比率変化の検討などが行われているものの、歩行時間との関連性を検討した報告は少ない。そこで、本研究では筋力の他にH/Q比も歩行時間に反映する要因の一つになるのではないかという仮説を立て、4病院にて得られたデータのうち、最大筋力により歩行時間が比較的反映されていない群のH/Q比を分析し仮説に対する検討を行うことを目的とする。【方法】 対象は2010年4月から2011年7月までに4病院においてTKA患者に対し術前から術後12週のいずれかの時点で評価が可能であった症例とした。症例数は全評価時期にてのべ383例(男性55例、女性328例、平均年齢74.36±8.07歳)で両側同時にTKAを施行している症例は除外した。HHDによる筋力測定は、ANIMA社製μ-tasを使用し、端座位時に膝関節屈曲60°の姿勢で膝関節伸展と屈曲が計測できるよう専用の測定台を作成し、ベルトにて下肢を台に固定した状態で伸展と屈曲を各々2回測定した。測定値は2回測定したうち最大値を体重で除し正規化した値を使用した。また、歩行能力の指標は10m最大歩行時間とした。全症例に対して最大筋力が歩行時間に比較的反映されていない群の抽出は、歩行時間の平均値及び膝関節伸展・屈曲筋力を合計した値(以下筋力合計値)の平均値を指標に、平均値より歩行時間が速く筋力合計値が低い群と歩行時間が遅く筋力合計値が高い群を選別し、2群間のH/Q比を対応の無いt検定にて検討した。また、筋力測定台による測定値の再現性を検討するため、伸展・屈曲それぞれの測定値を級内相関係数にて検討した。【倫理的配慮】 本研究は、当大学倫理審査委員会の承諾を得て施行した。【結果】 歩行時間が速く筋力合計値が低い群は168例(男性20例、女性148例、平均年齢73.62±8.40歳、平均歩行時間9.37±1.59秒、平均筋力合計値2.61±0.65N/kg、平均H/Q比0.55±0.32)、歩行時間が遅く筋力合計値が高い群は55例(男性6例、女性49例、平均年齢76.02±6.00歳、平均歩行時間18.34±10.82秒、平均筋力合計値3.03±0.62N/kg、平均H/Q比0.46±0.20)であり、2群間において有意差が見られた(p<.05)。なお、測定台による筋力測定値の再現性はICC(1.2)にて全ての値が0.95~0.90であった。【考察】 結果より術前及び術後TKA患者において歩行時間が速く筋力合計値が低い群と歩行時間が遅く筋力合計値が高い群のH/Q比に有意な差が認められた。つまり、H/Q比は膝関節伸展と屈曲の最大筋力が低いにも関わらず歩行時間が速い群と、筋力は高いが歩行時間が遅い群の違いを示す指標の一つになりうると考えられる。これより、最大歩行時間に影響を及ぼす要因として、最大筋力以外にH/Q比も考慮する必要があると考える。また、2群間のH/Q比平均値を比較すると歩行時間が遅く筋力合計値が高い群に比べ、歩行時間が速く筋力合計値が低い群はハムストリングスの比率が高値となっていた。ハムストリングスは膝関節屈曲以外に股関節伸展作用があるため、今回比較した群において筋力が低いにも関わらず歩行時間が速い群はハムストリングスの股関節伸展作用を利用している可能性も考えられる。今回は術前及び術後TKA患者の術側下肢のみでの検討を行ったが、非術側下肢の状態や歩行補助具の使用、疼痛の有無、評価時期、年齢などの条件を絞り込んだ検討も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より術前及び術後TKA患者におけるH/Q比が歩行時間を反映する指標の一つになりうることが示唆され、理学療法研究としての意義があると考える。過去のH/Q比の報告ではTKA患者の歩行時間を反映する適切な比率は報告されておらず、今後は更に多群間の比較により最適なH/Q比の検討を行っていきたい。

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top