理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
人工膝関節全置換・単顆置換術後の転倒と身体機能調査
田中 友也美崎 定也古谷 英孝廣幡 健二杉本 和隆佐和田 桂一三井 博正
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Cb0719

詳細
抄録

【はじめに、目的】 近年、人工膝関節全置換術(TKA)、単顆置換術(UKA)の施行数が増加している。TKA・UKAは患者の満足度が高く、安定した術後成績を得ることができ、手術からの退院日数を短くすることができる。その反面、TKA後は固有受容器の機能低下によって、転倒を引き起こす可能性があるとされている。転倒は術後合併症である骨折や脳外傷などを起こす危険性があり、TKA・UKA術後患者のQOLの低下を起因させる問題だと考える。本邦では、在宅高齢者を対象とした転倒調査は多く行われているが、TKA・UKA術後患者の転倒を調査した先行研究は少なく、転倒の実態を把握しきれていない。本研究の目的は、TKA・UKA術後患者の転倒発生状況を横断的に調査すること、加えて、転倒と身体機能の関連を明らかにすることである。【方法】 2006年~2011年にかけて当院でTKAまたはUKAを施行し、2011年9~10月に定期外来診察を受けた症例(神経筋疾患、認知症を有する者は除外)を対象とした。転倒の定義は、歩行や動作時に故意ではなく、床や地面もしくは膝よりも低い位置に手や殿部などの身体の一部がついた場合とした。測定項目は、基本属性として1)年齢、2)性別、3)BMI、4)術後経過日数、5)術側、自記式アンケートとして6)転倒に関するアンケート(転倒の有無、転倒回数、外傷の有無)、日本語版Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の7)疼痛項目8)身体機能項目、9)日本語版Physical Activity Scale for the Elderly (PASE)、身体機能検査として10)左右股関節可動域(屈曲・伸展)、11)左右膝関節可動域(屈曲・伸展)、12)左右足関節可動域(底屈・背屈)、13)等尺性膝伸展筋トルク、14)開眼片脚立位時間、15)ファンクショナルリーチテストを行った。等尺性膝伸展筋トルクの測定は、ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTas‐F1)を用いた。測定値は体重と下腿長にて標準化した値を採用した。統計解析は、記述統計により症例の特徴をとらえた。転倒の有無より転倒群と非転倒群に分け、各変数の群間比較にX2検定、t検定、Mann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的を事前に説明し、同意が得られた者に対して実施した。【結果】 測定とアンケートはTKA・UKA術後患者121名に対して行い、アンケート回収率は70%、有効回収率は62.5%であった。対象者は70名[年齢(平均±標準偏差)71.8±7.4歳、BMI26.1±3.9kg/m2、経過日数(中央値、範囲)304.5、57-2012日、男性7名、女性63名、両側TKA21名、片側TKA15名、両側UKA22名、片側UKA12名]となった。転倒者数は70名中13名であった(18.6%)。転倒回数は1回8名、2回4名、3回1名であった。外傷ありと答えた症例は3名であった。群間比較の結果、非転倒群に比べ転倒群は年齢が高く(転倒群76.3歳、非転倒群70.8歳、P=0.014)、WOMAC身体機能項目(転倒群92.0点、非転倒群94.6点、P=0.041)、日本語版PASE(転倒群68.8点、非転倒群118.9点、P=0.018)が低値を示した。その他の変数は有意差を認めなかった。【考察】 今回の調査において、TKA・UKA術後患者の18%が転倒を経験しており、そのうちの3名が外傷を伴っていた。本邦での在宅高齢者の転倒発生率は10~20%と報告がある。また、TKA術後患者の転倒発生率は、Swinkelsら(2009)は24.2%、松本ら(2010)は29.8%と報告がある。先行研究と本研究の結果を比較すると、在宅高齢者と同等の値を示し、TKA術後患者より幾らか低い値を示した。群間比較で、年齢と自記式アンケートの身体機能(WOMAC)と身体活動量(PASE)に有意差が見られたことから、高齢で身体機能の低下を生じているTKA・UKA術後患者は、転倒を起こす可能性があると示唆された。転倒を防ぐためには、転倒予防指導や自宅で行えるトレーニングの指導を行う必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本邦でTKA・UKA後患者の転倒を調査した研究が少なく、転倒の実態を把握できていない。今後、転倒者の特徴をとらえることにより、理学療法を進める際に必要な治療プログラムや日常生活指導を立案できる。

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top