抄録
【はじめに、目的】 人工膝関節全置換術(以下TKA)は短期間で安定した膝の徐痛効果が得られる一方、時折術後早期に足部痛や足関節痛を訴える症例を経験する。TKAによる前額面での急激な下肢アライメントの変化は足関節に影響を及ぼす可能性があるが、先行研究ではTKA後の膝関節アライメント変化は後足部アライメントに関与しないと報告されている。しかし、TKA後の膝関節アライメント変化と足底圧の関係についてはあまり知られていない。そこで、仮説1.TKA前後の大腿脛骨角(以下FTA)の変化が大きいほど足部にかかる荷重がより内側に変移するのではないか。 仮説2.TKA後に足部痛を有する群は足底圧がより内側変移となっているのではないかという仮説を立てた。本研究の目的は、この仮説を検証するためTKA前後の踵部足底圧を検討することである。【方法】 対象は当院にて内側型変形性膝関節症(以下膝OA)と診断されTKAを施行した90例90膝(男性6名、女性84名、平均年齢74±6.7歳、平均身長152.3±7.3cm、平均体重58.6±11.0kg、平均BMI25.08±1.9)を対象とした。足底圧はalFOOTS社製Gait-viewを用いた。計測肢位は、静止立位にて踵部間隔5cm、第1中足指節関節(以下MP関節)と踵部内側縁を結ぶ線が30°となるように設定し、計測時間を開眼で10秒間とした。TKA後に足部痛が出現した足部痛有群(16例)と足部痛が出現しなかった足部痛無群(74例)の2群に分け、TKA術前と術後のFTA、術側踵部内側圧、術側踵部外側圧を比較し検討した。踵部内側圧と踵部外側圧は踵部内側/外側圧比として算出し比較した。また、TKA前後で踵部内側/外側圧比の変化率とFTAの変化率も算出し比較した。統計処理はStatViewを使用し、各相関はPearson相関係数を求め、平均の差の検定はt検定を用いた。有意水準は5%未満(p<0.05)とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象とした90名の被験者には、本研究の目的と方法について説明し、同意を得られた。【結果】 1.FTAの変化と足底圧の関係FTAは術前184±5.6°から術後174.2±1.5°へと有意に減少し(p<0.0001)、FTA変化量は-10.6±5.1°であった。踵部内側/外側圧比は0.99±0.08から1.04±0.11へと有意に増加していた(p<0.0001)。しかし、FTA変化量と踵部内側/外側圧比の変化量に相関は認められなかった(r=0.06,p=0.57)。 2.足部・足関節痛有無による比較足部痛有群では、FTAが術前184.6±3.3°から術後174.1±1.4°へと有意に減少した(p<0.0001)。踵部内側圧は88.2±19.2kpaから95.0±20.9kpaへと増加し、踵部外側圧は87.1±18.8kpaから85.8±19.4kpaへと減少した。踵部内側/外側圧比は、1.02±0.10から1.11±0.09へと有意に増加し(p<0.0001)、踵部内側/外側圧比の変化量は0.1±0.04(変化率9.8±5.5%)であった。足部痛無群では、FTAが184.6±5.4°から174.1±1.7°へと有意に減少した(p<0.0001)。踵部内側圧が85.7±22.4kpaから87.3±20.8kpaへと増加し、踵部外側圧は87.3±21.7kpaから85.1±19.5kpaへと減少した。踵部内側/外側圧比は、0.98±0.09から1.03±0.11へと有意に増加し(p<0.0001)、踵部内側/外側圧比の変化量は0.05±0.09(変化率4.8±9.5%)であった。2群間ではFTA変化量に有意差は認められなかったが(p=0.97)、踵部内側/外側圧比の変化量は有意差が認められた(p=0.03)。【考察】 TKAを施行することによってFTAと踵部内側/外側圧比は大きく変わったが、FTA変化量と踵部内側/外側圧比の変化量に相関は認められなかった。これらからFTAと足底圧の関係を見出すことができなかった。踵部内側/外側圧比は、2群共に踵部内側圧が有意に増加し踵部外側から内側移行したが、足部痛有群の方がより変化が大きかった。これは仮説2を支持する結果であった。足底圧の変化の大きさが足部痛に関係していると考えられるが足部痛による逃避現象の可能性も否定できない。今後さらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究によってTKA後の足部・足関節痛と足底圧の関係が明らかになったことからTKAにともなう足部・足関節痛の予防・改善にとって一助となるであろう。