抄録
【はじめに、目的】 Timed Up & Go test(以下,TUG)は,高い信頼性や妥当性が報告された動的バランスの評価であり,高齢者の転倒リスクや脳卒中患者の移動能力の予測などに用いられている.整形外科疾患患者においても,人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:以下,TKA)患者を対象に長期的な機能回復の推移を反映する指標として用いられた報告がある.TKAの対象となる疾患は様々であるが,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:以下,RA)患者に実施されることも少なくない.しかし,TKAを実施したRA患者にTUGを用いた報告は少ない.TKAを実施したRA患者のTUGと身体機能の関連を検討することは,評価指標として用いることの有用性や,評価指標としての特徴を考慮する際に有用と考えられる.本研究の目的は,TKAを実施したRA患者の退院時のTUGと身体機能との関連を検討し,TKAを実施したRA患者のTUGと関連する身体機能とその特徴を明らかにすることである.【方法】 対象は,S大学病院にTKA目的で入院し,術後に理学療法を実施したRA患者66名(男性11名,女性55名,年齢63.9±9.9歳,BMI22.0±2.3kg/m2)である.評価項目は,等尺性下肢筋力(膝伸展,股外転,股伸展),関節可動域(膝屈曲,膝伸展),片脚立位時間(以下,片脚立位),疼痛(Visual Analog Scale:以下,VAS),最大歩行速度での10m歩行時間(以下,10m歩行),TUGとし,評価時期は退院時とした.なお,下肢筋力の指標は体重比を算出した.統計学的処理は,各身体機能とTUGとの関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検定した.次に,相関を認めた因子を独立変数,TUGを従属変数として,Stepwise重回帰分析を行った.なお,統計解析には統計ソフトSPSS(Ver.12.0J)を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 倫理的配慮として聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を受け(承認番号第1618号),対象者には研究について十分な説明を行い,同意を得て実施した.【結果】 各評価項目の中央値(四分位偏差)は,術側/非術側の順に,下肢筋力体重比は,膝伸展筋力0.18(0.05)/0.30(0.10)kgf/kg,股外転筋力0.24(0.07)/0.27(0.07)kgf/kg,股伸展筋力0.28(0.14)/0.31(0.16)kgf/kg,膝屈曲可動域は115(6.9)/130(10)度,膝伸展可動域は-5(2.5)/0(2.5)度,片脚立位は5.38(9.98)/5.11(13.85)秒であった.VASは19(22),10m歩行は9.92(2.3)秒,TUGは12.11(3.3)秒であった.TUGと各変数の相関をみたところ,非術側膝伸展筋力体重比(rs=-0.611,p<0.01),術側股外転筋力体重比(rs=-0.555,p<0.01),非術側股外転筋力体重比(rs=-0.284,p<0.05),術側股伸展筋力体重比(rs=-0.595,p<0.01),非術側股伸展筋力体重比(rs=-0.611,p<0.01),術側片脚立位(rs=-0.673,p<0.01),非術側片脚立位(rs=-0.702,p<0.01)で,それぞれ有意な相関があった.これらを独立変数とした重回帰分析の結果,TUGには,非術側片脚立位(β=-0.351,p<0.05),非術側膝伸展筋力体重比(β=-0.340,p<0.05)が有意に関連した因子であった(R2=0.355,p<0.01).【考察】 重回帰分析ではTUGに関連する因子として非術側膝伸展筋力体重比と非術側片脚立位が抽出された.このことから,TKAを実施したRA患者におけるTUGは,下肢筋力とバランス能力を反映する評価指標として有用な可能性が考えられた.また,非術側の因子のみ抽出されたことから,TUGは,退院時という術後早期において,侵襲のあった術側に比べ,非術側の機能の影響を受けると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 TKAを実施したRA患者において,退院時のTUGは身体機能を反映する評価として有用と考えられ,有意な関連を認めた非術側の機能や,相関を認めた術側のバランス能力,股関節周囲筋力は,TKAを実施したRA患者に施行する理学療法内容を選択する際の一助になると考える.