抄録
【目的】 変形性股関節症(以下股OA)と体幹や膝関節アライメントの関係についての先行研究は多くみられる。しかし臨床的に股OAは隣接関節のみならず、足部機能も破綻している症例は多い。足部アライメント変形は歩行の妨げとなり、その改善は理学療法を進める上で重要である。しかし股OAと足部障害の関係についての研究は十分なされていない。そこで本研究の目的は、股OAの足部アライメントと股関節の関係性を明らかにすることである。【方法】 対象は手術の既往が無い股OA群24例(両側OA10例 片側OA14例 女性21例 男性3例 年齢69.0±9.2歳)34肢と、健常群11例(女性10例 男性1例 年齢66.6±9.9歳)22肢である。足部評価として下記の項目を測定し、股OA群と健常群で比較検討した。下腿長軸と踵骨がなす角度(以下LHA)は踵骨近位・中位・遠位中央、アキレス腱遠位中央、下腿遠位1/3中央にマーキングし、自然立位における下腿と後足部をデジタルカメラで後方から撮影し、画像解析ソフトImageJを使用し求めた角度3回の平均値とした。また同様の立位姿勢で、母趾外反角、アーチ高率を求めた。底屈筋力は、ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTas F-1)と固定ベルト用い、最大等尺性収縮5秒間を2回測定した高値の体重比(kgf/kg)を算出した。また股OA群のみ股関節評価として、X-p正面画像より求めた股関節頚体角と骨盤前後傾斜(骨盤腔の最大横径/縦径の値)、ハンドヘルドダイナモメーター用い股関節外転筋力、股関節伸展筋力を測定し、股OA足部との相関を検討した。なお統計はスチューデントt検定、マンホイットニ検定、ピアソン相関係数を用い危険率は5%とした。【説明と同意】 本研究は、当院において股OAに実施している治療上必要な検査からなり、ヘルシンキ宣言をもとに、保護・権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを説明し、同意を得ることができた場合のみ対象として計測を行った。【結果】 股OA群と健常群の足部の比較は以下の結果となった。LHAは股OA群13.1±4.4°健常群8.6±2.3°で股OA群の方が高値を示した(p<0.01)。母趾外反角も股OA群24.4±8.6°健常群19.2±7.3°で股OA群の方が高値を示し(p<0.05)、アーチ高率は股OA群18.7±3.7°健常群21.5±2.5°で低値であった(p<0.01)。また底屈筋力は股OA群0.35±0.16健常群0.47±0.12で股OA群の方が低下していた(p<0.01)。股OA群の股関節と足部では、頚体角と母趾外反角に負の相関(r=-0.56 p<0.01)が認められ、頚体角とアーチ高率(r=0.32 p<0.01)、頚体角と底屈筋力(r=0.33 p<0.01)に正の相関が認められた。骨盤前後傾斜は母趾外反角と負の相関(r=-0.32 p<0.01)が認められた。また、外転筋力、伸展筋力は、LHA、母趾外反角、アーチ高率と相関は無かったが、外転筋力と底屈筋力(r=0.66 p<0.01)、伸展筋力と底屈筋力(r=0.78 p<0.01)に正の相関が認められた。【考察】 今回の結果より健常群に比べ股OA群は後足部回内、外反母趾、偏平足を呈し、底屈筋力も低下していた。これらの原因の1つとして、股OAは股関節の被覆率を高めるために骨盤前傾位を取る症例が多いと報告されており、骨盤前傾による運動連鎖として股関節屈曲・内転・内旋、下腿内旋、足関節外反位となり足部内側荷重になるためと考えられる。また、頚体角の減少と外反母趾、偏平足の傾向には相関が認められた。これは、頚体角の減少に伴い股関節は内反股となるため内転位をとりやすくなる。その結果膝関節は外反位、足部は内側荷重となり、外反母趾・偏平足を呈したと考えられる。次に、骨盤前後傾斜と母趾外反角に負の相関が認められた。これは骨盤前傾角度の増大に伴い外反母趾を呈しやすいことを示している。今回股関節外転・伸展筋力と足部アライメントでは相関がなく、股関節筋力よりも頸体角の増加や骨盤前傾が足部アライメントに影響を与えていることが解った。【理学療法学研究としての意義】 股OAは隣接関節のみならず足部アライメントにも運動連鎖的に影響を及ぼしていることが示唆され、足部アライメント破綻の一因になっている可能性が推察された。このことは、理学療法を進めていく上で全体のアライメントを見ていく必要性を再確認するものである。今後の展望として筋力そのものではなく、筋電図を用い股OAの歩行時の股関節周囲筋の出力タイミングや片脚立位時の股関節バランス調整能力と足部アライメントとの関係性を検討していきたい。