理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
大腿骨頚部骨折術後患者の急性期病院からの退院に関する要因
増田 幸泰
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Cb1118

詳細
抄録
【はじめに、目的】 近年,クリニカルパスやDPCの導入などにより,急性期病院における在院日数の短縮がいわれており,早期の退院や転院を必要とするケースがみられる.大腿骨頚部骨折の患者にも地域連携などを目的に地域連携パスが適用されるケースがあり,回復期リハビリテーション病院(以下,回復期)への転院が必要なケースも増えてきている.しかし,大腿骨頚部骨折においては術後の機能回復も早期化しており,急性期病院から自宅退院か回復期への転院かに迷うこともしばし見られている. 今回,当院における大腿骨頚部骨折術後の患者で回復期へ転院した患者と自宅へ退院した患者を比較し,回復期への転院を早期から決定する要因を検討することを目的とした.【方法】 対象は2010年4月から2011年3月までに当院にて大腿骨頚部骨折または転子部骨折の手術を施行した120名のうち,回復期へ転院または自宅退院した患者70名を対象とした.回復期への転院は33名82.4±9.9歳(男性:12名,女性21名),自宅退院は37名75.6±13.3歳(男性:13名,女性:24名)であった. カルテより後方視的に術式,受傷日,入・退院日,手術日,理学療法開始および終了日,同居家族の有無,入院時血清アルブミン値(以下,Alb値),受傷前および退院時歩行能力,歩行練習開始日を調査した.在院日数及び術後の在院日数,術後の理学療法介入期間(以下,介入期間),受傷から手術までの期間(以下,待機期間),手術から歩行練習開始までの期間(以下,歩行開始期間)を算出し,独立2群のt検定を用いて比較した.また,歩行獲得率(歩行補助具の使用の有無に関わらず,歩行を獲得した比率),歩行再獲得率(受傷前の歩行状態に戻った比率)も算出し,同居家族の有無や受傷前の歩行状態(独歩か補助具ありか)と同様にχ2検定を用いて比較した.なお,それぞれの有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院の倫理規定及びヘルシンキ宣言に基づき,個人が特定されないように個人情報の保護に配慮して調査,研究を行った.【結果】 両群の年齢,性別,術式,同居家族の有無において有意差は認めなかった.Alb値(回復期:3.9±0.3,自宅:3.9±0.5)や在院日数(回復期:40.2±14.1日,自宅:39.5±17.1日),術後の在院日数(回復期:31.1±11.9日,自宅:31.5±16.2日),介入期間(回復期:31.2日±12.1日,自宅:32.1±18.0日),待機期間(回復期:9.0±6.0日,自宅:8.8±6.1日)においても有意差は認めなかった.受傷前の歩行状態は自宅群で有意に独歩が多く(回復期:53.1%,自宅74.2%),歩行再獲得率は自宅退院群で有意に高かった(回復期:18.8%,50.0%).また,手術から歩行練習開始までの期間は自宅群で有意に短かった(回復期7.5±5.8日,自宅4.9±6.2日).【考察】 急性期病院における在院日数の短縮化に伴い,回復期への転院が必要なケースが多くみられるようになっている.しかし,実際の臨床場面において回復期への転院を決定していく際には身体機能のみではなく,社会的要因などを含め様々な要因が関係している可能性があり,早期からの決定を困難にすることがある.今回,性別や年齢,術式など基本情報は両群に有意差を認めなかった.また,受傷前の栄養状態を反映するAlb値や同居家族の有無など社会的要因も検討したが,いずれも回復期への転院には影響していなかった.また,在院日数や介入期間も両群に有意な差は無く,待機期間も有意差を認めなかった.しかし,自宅群は入院前の歩行レベルが独歩である比率が高く,歩行再獲得率も有意に高かったことは,受傷前の歩行状態を把握することで,自宅退院の可能性を早期に予測できる可能性があると考えられた.また,歩行練習開始が術後早期であるほど自宅退院の可能性が高く,先行研究などの結果とも一致しており,早期の歩行練習の重要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 大腿骨頸部骨折術後患者の転帰先の決定に関する要因が示唆され,クリニカルパスや理学療法評価に反映できる可能性がある.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top