理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
大腿骨人工骨頭抜去後に歩行獲得した脳卒中片麻痺患者の一症例
─杖前方支持歩行の力学的考察─
高田 和秀室井 宏育佐藤 純也山口 美穂
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p. Cb1119

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抄録
【はじめに】 我が国では大腿骨頸部内側骨折の手術療法として約3/4に人工骨頭置換術が用いられている。しかし、その内の少数は置換術後に機械的な緩みや感染により再置換や人工骨頭抜去を余儀なくされているが、人工骨頭抜去後の歩行機能に関する報告は少ない。今回,我々は人工骨頭抜去後に杖歩行が可能となった脳卒中片麻痺患者の理学療法を経験する機会を得たので,本症例で特徴的であった杖の付き方について考察を加え報告する。【症例紹介】 50代,男性,身長172cm,体重94kg,BMI31.8.二年前に右大腿骨頸部内側骨折受傷し人工骨頭置換術施行。今回,置換部の感染あり再置換目的で入院。既往症:脳梗塞による右片麻痺(8年前)。入院前は短下肢装具を装着しT-cane歩行自立。車の運転を行う等活動性は高かった。【倫理的配慮】 本研究に際し,個人情報収集の目的と利用の範囲について説明と同意を得た。【経過】 本年1月に感染により人工骨頭抜去。6月に再置換を断念し,翌週から1/2PWB開始。2週後より全荷重許可となり歩行訓練開始。8月になりT-cane歩行自立,階段昇降獲得。10月に介護老人保健施設へ転所。【歩行開始時評価】 関節可動域:右股関節屈曲85°,伸展5°,外転25°,外旋50.MMT:非麻痺側上下肢5.下肢長(棘果長):右87cm,左91cm.神経学的所見:Br-stage上肢3,手指2,下肢4,疼痛:なし.荷重量:平行棒支持にて25kg.ADL:右下肢へ荷重せず左片脚での移乗動作可能。歩行不可。車椅子使用し入浴を除く病棟ADL自立(FIM:115/126,BI:50/100)。【理学療法アプローチ】 ステム抜去後の歩行獲得には補高と筋力増強が必要と報告があり,荷重開始時から補高の調整を行い,最終的に3cmの補高靴を作成。筋力増強は抜去側が麻痺側であり選択的な筋力訓練は困難であったため荷重練習を中心に実施。荷重・歩行練習は平行棒内から開始。右下肢の支持性が十分に得られず左手での側方支持では全荷重開始となっても荷重量増えず左下肢のstepが困難であったため,本人が最も支持感覚が良好であった杖前方支持(体の前につく)にて継続。可動域訓練は装具装着に必要な股関節の可動域獲得を目的とした他動運動のみを実施。【歩行開始1か月時評価】 機能的には著変なし.右下肢への荷重量:30kg.T-cane歩行自立レベル.10m歩行:34″37.歩行率:94.3 step/min.連続歩行距離20m.歩行分析:杖を前方につき全体を通し体幹軽度前傾位。右骨盤拳上位でそれに対応して体幹左側屈位となっている。右遊脚期には右骨盤拳上強まり振り出しを代償。右立脚期に杖は重心から下ろした垂線に一致した位置に接地。右単脚支持期が短縮。ADL:車椅子使用し病棟ADL自立(入浴一部介助)。病棟での歩行は非実施。(FIM:118/126,BI:80/100)【歩行獲得までの流れ】 全荷重開始以降も30kg以上の荷重困難。平行棒内での荷重・歩行練習から杖を前方につく方法に変更。変更後は左下肢のstep 可能,その後杖歩行獲得に至った。杖歩行獲得後も右下肢への荷重量は変化なし。【考察】 本症例は人工骨頭抜去に加え,右片麻痺の既往があり,歩行補助具の選択が制限され松葉杖使用などでの免荷が困難であったが、杖を体の前方につくという方法で一本杖歩行を獲得した。本症例の杖歩行をトルク平衡方程式(HAF×D+CF×D2=JRF)に当てはめて考えると、ステム抜去による外転筋力(HAF)低下により,杖歩行獲得には杖の支持量(CF)を増大する必要があった。しかし,杖側方支持では大きな支持量を得ることができないためJRF(関節反力)との均衡が保てず歩行困難であったと思われる。しかし,杖前方支持での歩行においては股関節から杖までの距離(D2) は短くなったものの、杖の接地位置が重心から下ろした垂線に一致したことで,杖にもたれかかる様な形となり側方支持では困難であった垂直方向への大きな力が加わりCFが著しく増大した。これにより,JRFとの均衡を保つことが可能となり歩行獲得に至ったと推察される。【理学療法学研究としての意義】 これまで人工骨頭抜去後の歩行獲得についての報告は健常人・運動器疾患を合併した症例についてのものがほとんどであったが,今回の症例を通して人工骨頭抜去後の片麻痺症例でも杖歩行獲得できる可能性があることが分かり,同様の症例に対し歩行獲得に向けたアプローチが必要であると思われた。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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