抄録
【はじめに、目的】 当院は地域の急性期中核病院で、DPC導入に伴う入院期間の短縮や診療の機能分化が求められており、より円滑な地域連携が必要とされている。地域連携パス(以下パス)の導入により継続したリハビリテーション(以下リハビリ)が可能となったが、だれもが転院による長期的なリハビリを望んでいるわけではない。パスの運用に関しては、認知症患者などを対象除外している施設もあるが1)、当院では大腿骨頚部骨折患者(以下頚部骨折患者)に対しては入院と同時に全例にパス使用を推奨している。そこで、パス運用の現状を見直し今後の有効な活用のため、過去2年間の頚部骨折患者の動向調査とパス使用例の追跡調査をおこなうことで若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象は平成21年4月~平成23年3月に当院入院となった頚部骨折患者165名から、保存治療18名・死亡2名を除いた145名を対象とした。1.対象者の入院前居住地内訳(自宅98名、施設39名、他病院7名、転科1名)のうち入院前自宅群98名について調査した。入院前自宅群の転帰先を調査し、自宅退院(自宅群)と回復期病院転院(回復期群)に分類し比較検討した。検討項目は年齢・認知症合併(重症度は不明)・在院日数・受傷前歩行能力について診療録より後方視的に抽出した。受傷前歩行能力は歩行自立例と監視・介助を含む歩行困難例に分類した。2.対象者の転帰先(自宅38名、回復期病院63名、施設33名、他病院10名、転科1名)のうち回復期病院転院の約75%である47名が転院したA病院に情報提供を依頼し、最終退院時の状況を調査した。対象としたのは47名のうち受傷前に歩行自立していた43名である。その中で、最終退院時の歩行自立の可否を調査し、最終退院時に歩行自立となった歩行自立群(以下自立群)と歩行自立に至らなかった監視・介助を含む歩行困難群(以下困難群)に分類し、年齢・認知症合併・当院在院日数・A病院在院日数に関して調査した。統計学的検討はMann-Whitney検定を用いて有意水準5%を採用した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言の精神に則り実施し、臨床研究に関する倫理指針を遵守した。【結果】 1.入院前自宅群の転帰先別内訳は(自宅37名、回復期51名、施設6名、他病院4名)であった。以下に自宅群・回復期群の検討結果を述べる。平均年齢(自宅群76.8±10.3歳、回復期群86.2±5.4歳)、認知症合併例(自宅群6名、回復期群23名)、平均在院日数(自宅群49.0±20.9日、回復期群37.2±11.6日)、受傷前歩行自立例(自宅群32名、回復期群47名)。両群間において年齢・認知症合併・当院在院日数に有意差を認めた(0.05<P)。2.受傷前歩行自立していた43名中最終退院時において、自立群21名、困難群22名と約半数にレベル低下を認めた。両群の比較では、平均年齢(自立群86.0±4.8歳、困難群86.4±5.5歳) 、認知症合併例(自立群3名、困難群19名)、当院平均在院日数(自立群34.1±7.2日、困難群37.5±14.9日)、A病院平均在院日数(自立群67.9±24.0日、困難群81.7±25.9日)、となり認知症合併のみ有意差を認めた(0.05<P)。【考察】 当院におけるパス運用の現状は、高齢かつ認知症が大半を占める共通項目であった。さらに、認知症が機能予後に与える影響は大きく、本研究ではA病院転院の受傷前歩行自立患者の約半数が歩行困難なまま退院となっていた。頚部骨折の機能予後に影響する要因は、年齢・受傷前能力・認知症などが挙げられる2)。本研究から当院においては、受傷前歩行自立度よりも認知症の影響が機能低下や入院長期化の大きな要因であり、パス運用の必須条件にもなりつつある。認知症患者は長期にわたるリハビリが必要な一方で機能回復が困難な症例も多い。さらに、認知症患者において環境の変化は症状悪化の要因にもなりかねないため、早期にゴール設定しパスの使用だけでなく最終的な受け入れを考慮したサポート体制の導入が必要となる。また、認知症だけでなく内科疾患の合併や神経疾患の既往、独居生活・老老介護など自宅復帰を阻害する因子は多く、患者の能力だけでなく社会的背景や環境的要因の把握が重要となる。今後は今回の見解を踏まえて、術前の段階からパスについての必要性や患者のゴール設定を明確にしてオリエンテーションすることが重要である。そして、パスありきではなく患者の個別性を十分に考慮した患者主体の医療を継続していかなければならない。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、頚部骨折患者の機能予後に関わる因子とパス運用の現状を把握することができた。今後、パス運用の判断基準をさらに明確にしていくことは、患者・家族への安心した医療提供に寄与する。