理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
中高齢女性の尿失禁と静的立位アライメントの関連について
森 奈津子池添 冬芽福元 喜啓武野 陽平渋田 沙央理森 周平高木 優衣山田 陽介木村 みさか岩田 学市橋 則明
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p. Cb1127

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抄録

【はじめに、目的】 尿失禁は、生活範囲の縮小や経済的負担の増加、精神的ストレス、生活の質の低下などを招き、日常生活へ及ぼす影響が大きい。尿失禁のなかでも腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence; SUI)は骨盤底に構造的な弱点のある女性に特異的に多いタイプの尿失禁であり、分娩・加齢・肥満による骨盤底筋の機能低下に伴いSUI発生のリスクが高まることが知られている。SUI発生リスクと関連する骨盤底筋の筋活動は、体幹や骨盤のアライメントを実験的に変化させることで筋活動も変化することが報告されている。このことから、SUI発生は姿勢アライメントとも関連している可能性があるが、実際に尿失禁のある女性の姿勢アライメントとSUIの関連を詳細に調べた研究は見当たらない。 そこで本研究は、中高齢女性のSUIと静的立位姿勢における身体アライメントの関連を明らかにすることを目的とした。【方法】 地域在住の60~70歳代の健常女性109名(平均年齢69.9±4.7歳)を対象とした。尿失禁の頻度や量、誘因に関する自覚的評価表(ICIQ-SF)により、最近1年間の尿失禁を調査した。ICIQ-SFにより、尿失禁の誘因として「くしゃみやせきをしたとき」や「運動時」に尿失禁があると回答した者をSUIあり群と定義し、尿失禁がないと回答した者をSUIなし群とした。身体アライメントとして、静止立位における矢状面のアライメントを測定した。スパイナルマウス(INDEX社製)を用い、胸椎後弯角度と腰椎前弯角度を測定した。測定は2回行い、平均値を求めた。また、静止立位を右側方からデジタルカメラで撮影し、耳垂・肩峰・上前腸骨棘・上後腸骨棘・大転子・膝関節裂隙・外果の7箇所に添付したマーカーにより、骨盤前傾角度、股関節屈曲角度、膝関節屈曲角度、足関節背屈角度、外果に対する頭部(耳垂)の前後位置、外果に対する骨盤(上前腸骨棘と上後腸骨棘の中点)の前後位置を測定した。さらに重心動揺計を用いて足圧中心の前後位置を測定し、足長に対する踵からの位置(%)を算出した。 統計学的検定として目的変数をSUIの有無、説明変数を年齢と身体アライメントの各測定項目とした多重ロジスティック回帰分析を行い、SUIと関連する因子を検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究内容について口頭にて十分な説明を行い、書面にて同意を得た。【結果】 SUIなし群は51名、SUIあり群は41名であり、その他の17名はSUI以外の尿失禁がみられた。SUIあり・なしの2群間の年齢、身長、体重、BMIには有意差はみられなかった。SUIなし群およびSUIあり群それぞれの身体アライメントは胸椎後弯角度が34.3±9.9°、37.4±10.7°、腰椎前弯角度が20.7±7.1°、18.0±10.0°、骨盤前傾角度が6.3±6.8°、4.5±8.6°、股関節屈曲角度が6.7±15.1°、2.1±9.2°、膝関節屈曲角度が6.3±15.2°、3.5±5.7°、足関節背屈角度が5.9±3.6°、5.9±3.7°、外果に対する頭部の前方位置が2.9±2.2cm、3.1±3.3cm、外果に対する骨盤の前方位置が2.7±2.2cm、2.8±2.3cm、足圧中心の前後位置が42.6±5.1%、43.3±8.4%であった。多重ロジスティック回帰分析の結果、身体アライメント測定項目のなかで胸椎後弯角度と腰椎前弯角度がSUIに影響を及ぼす有意な因子として抽出され、オッズ比は胸椎後弯角度1.06(95%信頼区間:1.00~1.12)、腰椎前弯角度0.92(95%信頼区間:0.86~0.99)であった。【考察】 本研究の結果、胸椎後弯角度および腰椎前弯角度のみがSUIと関連する因子として抽出された。ただし、そのオッズ比は1.06、0.92であることから、SUI発生に及ぼす影響力としては大きくないと思われる。先行研究によりSUIのある者において、胸腰椎後弯が増強した「Slump姿勢」では、直立姿勢に比べて尿失禁に関与する骨盤底筋の筋活動が低下すると報告されている。骨盤底筋は腹腔内圧の上昇にあわせた活動をしており、胸椎後弯が増強したり腰椎前弯が減少したりすると腹腔内圧が低下することによって骨盤底筋の活動は低下すると考えられる。これらのことから、胸椎後弯角度および腰椎前弯角度はSUI発生リスクと関連性がみられたと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 今回、中高齢女性の尿失禁の発生と姿勢アライメントとの関連が明らかとなった。本研究結果は尿失禁の予防・改善を目指した理学療法を行ううえで考慮すべき重要な知見であると考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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