理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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膝蓋骨の変形と膝蓋骨周囲の骨アライメントの関係性について
西江 謙一郎上野 亜紀佐藤 俊彦田中 啓充鶴岡 浩司柚上 千春安廣 重伸江戸 優裕
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p. Cb1140

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抄録
【はじめに、目的】 近年、変形性膝関節症(膝OA)において、大腿脛骨関節(FT関節)の変形のみでなく、膝蓋大腿関節(PF関節)の変形にも着目する必要性を訴える報告が散見される。臨床上、膝OAにPF関節の変形が伴うことはよく経験するものの、FT関節の変形が軽度でも、PF関節の変形が重度な症例が存在している。即ち、FT関節の変形を発生・進行させる要因とは別に、PF関節の変形を発生・進行させる要因が存在していることが示唆される。そこで、本研究では内側型膝OA患者のレントゲン画像を用いて、PF関節の変形と関連する膝関節周囲の骨アライメントについて検討し、PF関節の変形の原因について考察したので報告する。【方法】 対象は2009年7月から2011年10月に当院で内側型膝OAに対して片側の人工膝関節全置換術(TKA)を施行した症例のうち、レントゲン画像の使用に承諾を得ることができた28名(75±6.5歳・女性23名・右側施行15名)とした。対象者のTKA施行に際して医師の処方の下、術前検査の目的で放射線技師により撮影されたレントゲン画像を用いて、膝蓋骨の変形の程度、及び膝関節周囲の骨アライメントを計測した。尚、計測対象はTKAが予定されている側とした。膝蓋骨の変形に関しては膝関節側面像において、膝蓋骨のPF関節面の平行線(膝蓋骨長軸線)に対して、膝蓋骨の周囲に増殖した骨棘の近位端と遠位端、及び骨棘を除いた膝蓋骨の上縁と下縁の計4点から各々垂線を引き、その垂線と膝蓋骨長軸線の交点間の距離を計測することにより評価した。尚、膝蓋骨長軸線上での膝蓋骨自体の長さを膝蓋骨長とし、骨棘の長さを近位変形長・遠位変形長、近位と遠位の変形量の和を総変形長として定義した。そして、各変形長を膝蓋骨長で除し、更に百分率で表すことで、近位変形率・遠位変形率・総変形率を算出し、分析に使用した。膝関節のアライメントに関しては、正面像においてFTA、FC‐FS(大腿骨長軸と大腿骨内外顆の接線のなす外側角)、TP-TS(脛骨長軸と脛骨高原のなす外側角)、FC-TP(大腿骨内外顆の接線と脛骨高原のなす外側角)、側面像においてPPTA(脛骨長軸と脛骨高原のなす背側角)の5項目を計測した。統計学的分析には、膝蓋骨の変形と膝関節のアライメントの関係について、ピアソンの積率相関係数を求めて検討した。尚、検定における有意水準は危険率5%(p<0.05)で判定した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の主旨を説明し、レントゲン画像の使用に書面で同意を得た。【結果】 計測の結果、膝蓋骨の変形については近位変形率が13.0±10.9%、遠位変形率が3.1±6.8%、総変形率が16.2±14.1%であった。膝関節のアライメントについては、FTAが183±4.1度、FC‐FSが83.9±3.5度、TP-TSが94.7±3.5度、FC-TP が4.2±3.2度、PPTAが81.3±4.8度、であった。膝蓋骨の変形と膝関節のアライメントの関係については、近位変形率とFC‐FS(r=0.46)、総変形率とFC‐FS(r=0.43)、近位変形率とPPTA(r=-0.50)、近位変形率と総変形率の関係(r=0.88)に有意な相関が認められた。その他の膝蓋骨の変形と膝関節周囲の骨アライメントの関係には有意な相関は認められなかった。【考察】 今回の結果より、膝蓋骨の変形の増大に関連する膝関節アライメントはFC‐FSの増大と、PPTAの減少であることが分かった。FC-FSの増大は大腿骨骨幹部に対する顆部の内転方向への角度変化を意味している。それにより、大腿骨の顆間溝の走行が内向きになることで、PF関節の接触面が変化する可能性がある。PPTAの減少は、脛骨長軸に対する脛骨高原の後傾を示している。それにより、膝関節は伸展モーメントが求められやすく、大腿四頭筋の緊張が高まる動作様式となる事で、PF関節の圧縮力の増大を招く事が推察される。即ち、FC-FSの増大による前額面上のPF関節の接触面の変化と、PPTAの減少による大腿四頭筋の収縮に伴うPF関節の圧縮力の増大の2要因によって膝蓋骨の変形が進行したものと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により膝関節周囲の骨アライメントが膝蓋骨の変形に関与する可能性が示唆された。特に、FC-FSの増大とPPTAの減少が膝蓋骨変形のリスクファクターとなりうる事が示唆された。このことから、骨の変形がなくてもレントゲン画像上でこれらの所見が認められる場合、PF関節の動きや圧縮力に注意しながらエクササイズを構成することが、膝蓋骨変形の発生や進行のリスクを軽減させる上で必要であることが推察された。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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