理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
変形性膝関節症における立ち上がり動作時の大腿・下腿の運動学的解析
羽田 清貴徳田 一貫合津 卓朗田中 泰山吉田 研吾宮本 崇司井原 拓哉奥村 晃司杉木 知武川嶌 眞人
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p. Cb1141

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抄録
【目的】 椅子からの立ち上がり動作(sit-to-stand:以下,STS動作)は,日常生活で頻繁に行う動作であり,変形性膝関節症(knee osteoarthritis:以下,膝OA)患者では,STS動作にて症状が増悪することは臨床上よく経験する.膝OA患者において,STS動作能力は症状や病態だけでなく,日常生活の活動レベルにも影響を与えると考えられる.膝OA患者のSTS動作の動作方略を解明することで,膝関節へのメカニカルストレスの原因を捉えることができると考える.そこで本研究では,膝OA患者のSTS動作における大腿と下腿の運動を解析することを目的とした.【方法】 過去に膝痛がなく,下肢に既往歴のない健常成人12名(男性4名,女性8名,平均年齢50.8±4.8歳,以下,健常群)と膝OA患者17名(男性4名,女性13名,平均年齢61.1±8.3歳)を対象とした.膝OA患者はKellgren&Lawrence分類にてGrade1は3名,Grade2は5名,Grade3は5名,Grade4は4名に分類した.Grade1と2を軽度膝OA群(男性2名,女性6名,平均年齢61.0±9.9歳),Grade3と4を重度膝OA群(男性2名,女性7名,平均年齢61.1±7.2歳)とした.計測機器は,マイクロストーン社製3軸角速度センサMP-G3-01A,3軸加速度センサMA3-04Acを使用し,大腿と下腿の回旋角速度,側方角速度および下腿近位部の側方加速度を計測した.サンプリング周波数は100Hzとした.角速度センサは大腿外側部(股関節中心から膝関節裂隙の距離の近位57%)と下腿外側部(膝関節裂隙から外果の距離の近位57%),加速度センサは腓骨頭下にそれぞれバンドにて固定した.課題動作は,至適速度でのSTS動作とし,椅子の高さは下腿長とし,両足部間距離は下肢機能軸に合わせて設定した.座面の台と足部の下には,アニマ社製グラビコーダを2台設置した.STS動作は両上肢を前方に組んだ椅子座位から,十分な間隔をあけ4回実施した. STS動作はCasio社製ハイスピードカメラFC150を2台用い,前額面と矢状面から撮影した.得られた画像データと2台のグラビコーダデータより,STS動作を動作開始から殿部離床,殿部離床から動作終了の2相に分類した.統計処理は,3群間の大腿,下腿の各運動パラメーターを比較するために,統計解析ソフトR2.8.1を使用し,1元配置分散分析を行い有意差のあったものに対して多重比較法を行った.危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被検者に対して口頭かつ研究説明書及び同意書で説明し,十分な理解と同意を得て実施した.また,当院の倫理審査委員会の承認を得て実施した.【結果】 大腿の角速度において,殿部離床直前の重度膝OA群の大腿外旋ピークは50.0±22.2゜/secであり,健常群の93.6±41.1゜/secに対して有意に低値であった(p<0.05).また,殿部離床直前の重度膝OA群の大腿内転ピークは26.6±13.0゜/secであり,軽度膝OA群の46.3±14.3゜/secに対して有意に低値であった(p<0.05).更に,殿部離床時の下腿近位部の側方加速度(+内側,-外側)は,健常群0.56±0.32m/sec2に対して軽度膝OA群-0.21±0.32m/sec2と重度膝OA群-0.55±0.16m/sec2であり,有意に外側加速度が高値であった(p<0.01).【考察】 重度膝OA群は殿部離床直前に大腿外旋ピークと大腿内転ピークが低値であることが分かった.石井は,STS動作時の膝関節の動的安定化には,大腿骨軸と脛骨軸が一致し,大殿筋による伸展モーメントにて大腿脛骨関節面への接合力が生じることの重要性を述べている.結果より,殿部離床時において重度膝OA群は,大腿外旋と内転が不十分であり,大腿骨軸と脛骨軸が一致せず膝関節の動的安定化が困難であることが示唆される.更に,殿部離床時の下腿近位部の側方加速度は,健常群は内側加速度が生じるのに対して,膝OA群は外側加速度が生じる結果となった.下腿近位部の外側加速度の増加により,膝関節内に剪断力が生じると推察される.膝関節の運動は大腿骨と脛骨の相対運動の結果であり,股関節,足関節の運動に修飾された関節運動と捉えることができる.結果より,STS動作の瞬間的に荷重対応能力が要求される時期において,重度膝OA群は股関節及び足関節により大腿,下腿の動きの制御が困難であり,前額面上の膝関節の動的安定性の低下から,膝関節に剪断力を伴うメカニカルストレスが生じることが推察される.【理学療法学研究としての意義】 本研究の意義は,膝OA患者のSTS動作における大腿と下腿の運動学的解析により,膝関節に生じるメカニカルストレスを推測することである.今回の結果より,膝OAの進行に伴い,前額面上の膝関節の動的安定化機構の破綻が示唆された.比較的安価な3軸角速度センサ及び3軸加速度センサにて膝関節へのメカニカルストレスの評価が可能であることは,臨床研究や理学療法の効果判定に有用と考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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