理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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セルフモニタリング用チェックシートの活用により歩行能力が向上した大腿切断者の一症例
西澤 和真馬場 孝浩竹田 章一片井 聡
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p. Cb1142

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抄録

【はじめに、目的】 大腿切断者が義足歩行する際に考慮されるべきことは、疼痛がなく荷重をかけやすい快適なソケットの適合を得ることであるとされている。今回、体重増加、断端部痛によるソケットの不適合が生じ歩行能力が低下した大腿切断者に対して、入院中よりセルフモニタリング用チェックシート(以下、チェックシート)を活用したところ、自己管理の効果で不適合が改善し歩行能力が向上、退院後も継続した歩行が可能となった大腿切断者の理学療法を経験したので報告する。【方法】 症例は60代前半、扁平上皮癌、骨髄炎のため右大腿切断術を施行した男性である。術後25日目に当院転院。理学療法開始時、体重64.3kg、幻肢痛、断端部の癒着・疼痛を認めるが差し込み式大腿義足にて義足歩行練習開始。術後64日目に幻肢痛は軽減し片松葉杖にて院内歩行自立、術後68日目に吸着式ソケットへ変更する。術後90日目T字杖にて屋外歩行自立となり、断端部痛はあるものの1時間程度の散歩を意欲的に行っていた。ところが、過食により体重が増加したことでソケットの不適合が生じ、さらに滑液包炎による断端部痛の悪化によって、術後126日目に義足歩行が困難となった。そこで、義肢装具士と相談しソケットの形状について検討するとともに、体重・疼痛・歩行量などを経時的に本人に確認してもらうことを目的に、術後133日目よりチェックシートを開始した。チェックシート開始時、癒着部位無し、疼痛は断端部前面に圧痛を認め、筋力はMMT右股関節伸展・外転4、ROMは右股関節伸展0゜であった。チェックシートは、疼痛・歩数・体重・食事量・義足適合・装着時間・ストレッチ実施の7項目からなり、1日1回本人が記入できるように作成した。尚、疼痛はNumerical rating scale (NRS)の点数、歩数・体重・装着時間は実測値、その他の食事・義足適合・ストレッチ実施は、各項目ごとの基準を明確にしたうえで、「◎,○,△,×」の4段階で記入するとした。チェックシート活用による効果の確認は、開始後から退院後3週までの疼痛・歩数・体重の3項目の自己評定の記録とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究では臨床研究同意書に基づき目的、必要性を対象者に十分説明し、研究内容を理解して頂き書面にて同意を得た。【結果】 チェックシートは、退院までの46日間欠かさず記入できていた。体重はチェックシート開始時68.1kgから開始30日目に69.4kgに増加するが、退院時は再び68.6kg台に軽減した。疼痛は開始時NRS10から17日目に1まで軽減し25日目に0となり、その後疼痛の増悪はなかった。歩行は疼痛が軽減される25日目までソケットの不適合が継続し困難であった。26日目からは疼痛の消失、周径の安定に合わせてソケットを修正したことにより、適合が改善され徐々に歩数が増加し、36日目は約1000歩の歩行が可能となった。46日目の退院時、T字杖、吸着式大腿義足にて屋外自立、1日約1700歩程度の歩行が可能となり自宅へ退院となった。退院、3週間後のフォローアップ時、チェックシートの記入は継続しており、体重は維持され、断端部痛は認められずに1日約2000歩の歩行が可能となっていた。【考察】 本症例の歩行能力が低下した原因は、過食により体重が増加しソケットの不適合が生じたことに加え、歩行量が多くなり断端部痛の悪化が生じたためと考える。症例自身は、ソケットの適合を維持するためには体重の管理が必要であること、歩行量の増加により断端部痛が悪化する可能性があることを理解していたものの、自己管理が難しかった。今回作成したチェックシート開始後には、体重の維持、断端部痛の軽減により歩行能力の向上が図られた。義肢装具士によるソケットの調節が行われたこともあるが、チェックシート活用により、日々の僅かな体重の増加を数値的に確認し食事量を控える、断端部痛がなく義足歩行が可能でも疼痛が生じることを考慮し1日の歩行量を調整するなど、過去の記録から自己の身体状況を把握し適切に管理することが歩行能力の向上につながったと考えられる。一方で、このチェックシートは開始後から期待する効果を得るまでには時間がかかるという結果も得た。本人が継続して記入できることが条件として挙げられるため、本人が時間をかけずに一定の基準で評価し、記入による効果を実感できるように配慮することが必要と考える。【理学療法学研究としての意義】 体重増加によるソケットの不適合と歩行量増加による断端部痛がある大腿切断者に対して、入院中からチェックシートを記入することは、体重を維持し、断端部痛の予防を図りながら、歩行能力の向上につながる可能性があると考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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