抄録
【はじめに】 両側大腿切断は、片側切断と比較し義足装着下の立位バランス能力が低い。義足歩行獲得のためには、アライメントや義足長、パーツ選択などの義足の設定に加え、片脚切断とは異なるバランス保持と重心移動の方法を習得させるためのプログラムが必要となる。今回、義足歩行が自立した両側大腿切断症例の理学療法を経験したので報告する。【方法】 症例は40代、男性。職業は会社員(技術職)。交通外傷による両側大腿切断。特記すべき既往歴や合併障害なし。受傷後2日目より理学療法開始。<開始時評価>断端長は右24.5cm、左33.5cmでどちらも中断端。左右股関節および体幹・上肢の可動域制限はなく筋力も正常。切断前の身長は173cmであった。【説明と同意】 本報告に際し、本人に趣旨と目的を説明し承諾を得た。【結果】 <義足の設定について> 断端の創閉鎖が得られた受傷後7週目に四辺形ギプスソケットを側臥位にて採型し、ソケットにアダプタを介して足部を直接取り付けた短義足を作成した。初期屈曲角は、股関節伸展筋力が発揮しにくいと予測し左右とも10°に設定した。足部は取り付け部より後方を延長した船底型の物をまず使用し、立位バランスの安定が得られた9週目にSACH足部と変更した。受傷後12週目に、左側にバウンシング付きの多軸膝継手(Otto Bock社製3R60)、右側に手動固定膝継手(高崎義肢製TG1014)に変更した。受傷後14週目に、ソケットをIRCソケットに、懸垂はシールインライナーに、足部をエネルギー蓄積型足部(Otto Bock社製1D35)に変更した。受傷後18週目に、左右とも遊動膝での歩行を行うために膝継手の検討を行った。3R60と、バウンシング及びマニュアルロック付き多軸膝継手 (ナブテスコ社製NK-6+L)を比較し、左右ともNK-6+Lを選択した。<理学療法プログラムについて> 義足装着練習開始当初は、著明な重心後方偏位を認めたため腰椎前弯をできるだけ伴わずに修正する練習を行った。義足長は、短義足の56cmから受傷後9週目に61cm、10週目に65cm、11週目に75cm、12週目に85cmと4段階を経て、装着時身長が切断前と同等となる長さとした。SACH足部への変更後および義足長延長の経過中には、静的立位で股関節伸展筋を用いて重心を支持基底面の中心に移動し保持する練習や、歩行に向けたステッピング練習を行った。遊動膝での歩行練習開始当初は、膝完全伸展位で接地させるために振り出しが大きくなっており、これに伴う後方への重心移動のために腰椎前弯が強くなり、上肢支持量も多かった。また、左右への重心移動も過多となり外転歩行がみられ、両側遊動膝に変更後はこの傾向が強まった。これに対して、静止立位ならびに歩行時に股関節のみでなく体幹筋を用いて重心移動を制動する練習、義足の振り出しを少なくする練習、歩容の変化に応じた膝継手の伸展補助ならびに伸展抵抗の調節を行った。バランス保持と重心移動の習熟に伴って歩容が改善し、両側遊動膝でも固定膝と比較し歩行耐久性が向上した。平地やスロープではバウンシングによる膝折れ防止を利用し歩行したが、高い段差の昇降や床からの立ち上がりではマニュアルロック機構で膝を伸展位で固定して動作を行った。20週目に、両側T字杖での歩行が自立した。受傷後28週目に退院となった。退院時には、階段昇降や屋外不整地を両側T字杖使用して自立歩行が可能であった。屋外コンクリート路面での連続歩行距離または耐久性は約1Kmで、歩行速度は500m/12分であった。【考察】 非切断肢の足関節機能でバランスを援助できる片側切断者に対し、 両側大腿切断者は、両側股関節と体幹機能のみでソケットの上に立ち、支持基底面となる義足足部から離れた位置でバランスをとる必要がある。義足歩行獲得のためには、立脚相の重心移動を制御する能力の確保が理学療法のポイントと考えた。まず、静止立位にて矢状面上での制御を習得した後、歩行時に両足部間の正確な重心移動が可能となるよう練習を進めた。膝継手は、立脚相制御にバウンシングとマニュアルロックを備えたものを選択し、膝折れ防止と立ち上がりなど起居動作の獲得に役立った。義足長の延長は、幸らの報告(1990)によると4週間程度で4段階を経て切断前の身長になるよう延長しており、ほぼ同様の経過となった。急激に延長すると段階的な習熟が得られず、短い状態で長期間装着すると延長後の恐怖感や違和感が大きくなるため、今回の変更のペースは適度であったと考える。【理学療法学研究としての意義】 本症例は残存能力が高く、歩行再獲得への意欲も高かったため義足を日常的に用いる事が想定された。段階的な義足の設定変更とパーツ選択ならびに理学療法プログラムの工夫により良好な結果を得ることができた。今回のような報告の蓄積は、高い歩行能力獲得を可能にする理学療法介入のために有用と考える。