抄録
【目的】 大腿義足歩行では立脚初期に、切断側股関節を伸展して膝折れを防止する必要がある。また立脚後期まで切断側股関節を伸展させ続け、膝継手を随意的に操作し円滑な遊脚期を準備する必要がある。この一連の動作を獲得できないと異常歩行に繋がり効率的な義足歩行は獲得できない。切断側股関節を力源としてソケットに適切に力を伝え、義足を随意的にコントロールすることが極めて重要である。しかし臨床での歩行指導は切断側股関節を中心とした義足制御方法に着目したものが多く、骨盤と股関節の関係を考慮し実施されていない。よって本研究の目的は骨盤と股関節角度と股関節モーメントの最大値と、そのタイミングに着目し、健常者と切断者の歩行戦略にどのような相違点があるかを明らかにすることとした。【方法】 対象者は健常成人男性4名(年齢33.5±5.4歳)と歩行の逸脱が顕著でない最も高い活動レベル(MobilityGrade4)にある大腿切断者男性4名(年齢35.0±13.1歳)とした。構成パーツは常用で膝継手を単軸油圧式、足部はエネルギー蓄積型を使用している切断者を対象とした。計測には三次元動作解析装置VICON MXとAMTI社製床反力計を同期させた計測システムにて行った。計測課題は通常歩行で行い施行回数は10施行とした。角度は、骨盤・股関節について身体に貼付したマーカから各体節をセグメント定義し、オイラー角を用いて骨盤回旋角度と股関節屈伸角度を算出した。股関節モーメントの算出は臨床歩行分析研究会プログラムDIFF GaitとWave Eyesを使用し、得られた値は身長と体重で除した。計測対象は、切断側踵接地から始まる一歩行周期とし、立脚初期(以下IC)と後期(以下対側IC)に着目しデータより骨盤・股関節角度・股関節モーメントのピーク値を採り10試行分の平均値と標準偏差を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は国際医療福祉大学の倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号11-44) 【結果】 高活動切断者の共通項と、それが健常者とどのような相違点があるかを中心に示す。健常者の結果は4名ともに同様の結果が得られたため4名の平均と標準偏差を示し、切断者については4名それぞれの平均値を示す。股関節伸展角度を負(-)、股関節伸展モーメントを正(+)、切断側への骨盤回旋を正(+)とする。立脚後期の股関節伸展角度は健常者-18.5±0.9°切断者A:-24.4°B:-27.0°C:-25.9°D:-29.9°で切断者の伸展角度が大きかった。立脚初期の股関節伸展モーメントは健常者0.28±0.02Nm/kgm 、切断者A:0.27Nm/kgm、B:0.21Nm/kgm、C:0.25Nm/kgm、D:0.14Nm/kgmで健常者と切断者で違いがなかった。股関節屈曲モーメントは健常者-0.46±0.03Nm/kgm、切断者A:-0.69Nm/kgm、B:-0.95 Nm/kgm、C:-0.74 Nm/kgm、D:-0.69 Nm/kgmで切断者の屈曲モーメントが大きかった。骨盤回旋角度(切断側への回旋)は健常者6.3±1.1°切断者A:2.6°B:0.8°C:4.1°D:2.7°で切断者の骨盤回旋は小さかった。タイミングでみると健常者はIC時に骨盤回旋のピーク値がくるのに対して、切断者はIC時以降も骨盤は健側方向へ回旋し続けていた。健常者は対側IC時に骨盤回旋、股関節伸展、股関節屈曲モーメントのピーク値がくるのに対し、切断者は対側IC以降も切断側股関節は伸展し続けそれに伴い股関節屈曲モーメントも大きな値を示した。【考察】 立脚初期の床反力は股関節点の前方を通るため伸展モーメントの発揮が必要となる。栗山らは(2002)大腿切断者の立脚初期股関節伸展モーメントは発揮する期間が延長し、その値は健常者よりも大きくなると報告している。しかし、高活動レベルにある切断者は共通して股関節伸展モーメントは健常者よりも小さい値を示した。その理由としてIC時に切断者は骨盤を健側方向へ回旋させ、股関節点と床反力作用線との距離を小さくし股関節伸展モーメントを小さくする戦略をとっていたと考えられる。また対側IC時の床反力は股関節点の後方を通り屈曲モーメントの発揮が必要となる。切断者は対側IC時以降も股関節を伸展させ続け、骨盤の切断側への回旋を小さく留めることで股関節点と床反力作用線との距離を大きくし股関節屈曲モーメントを大きくする戦略をとっていたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 高活動大腿切断者の切断側股関節と骨盤の関係を理解することにより、新規切断者の歩行指導を短期間でより効率よく展開できると考える。