理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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Rocker functionに着目し歩行能力の改善がみられた一症例
井上 仁川上 健二松本 裕美兒玉 慶司兒玉 吏弘木許 かんな坪内 優太津村 弘片岡 晶志
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キーワード: 歩行, rocker function, 認知課題
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p. Cb1365

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抄録
【はじめに、目的】 歩行において下肢の動きを円滑にするために3つの異なる「揺りてこ」機能が存在し、これをrocker function(以下RF)と呼ぶ。今回、腰部脊柱管狭窄症(以下LSCS)の症例を担当し、歩行の特徴としてterminal stance(以下TSt)において両側の足趾が浮いた状態が確認された。そこで、RFの1つであるforefoot rocker(以下FFR)に着目し治療介入を行い歩行能力の改善がみられたため、考察を加えここに報告する。【方法】 症例は79歳男性で、疾患名はLSCS・馬尾腫瘍であった。数年前から腰痛があり、近医に通院しリハビリテーション等の加療を行っていた。その後も症状が持続したため、当院を受診し上記診断で手術目的にて入院となった。入院4日目にL2/3-4/5椎弓切除術・腫瘍摘出術を施行し、術後16日目に自宅退院となった。術前の理学療法評価では、主訴は歩行時の下肢全体の痺れでありVASで7.1、15分間程度の歩行で間欠性跛行が出現するといった状態であった。疼痛部位は腰部でASにて2.3、中腰での作業や歩行時に疼痛が出現していた。下肢関節の関節可動域は特に制限はみられず、MMTでは下腿三頭筋が両側共に2+で、その他の筋は5レベルであった。表在・深部感覚は特に問題なかった。立位姿勢は腰椎の前弯が減少し、骨盤は後傾位で上半身重心は後方へ偏位していた。歩行に関しては独歩可能で、10m歩行時間は9秒36、歩数は21歩、6分間歩行は384mであった。両側のTStにて足趾が浮いた状態となりFFRが消失していた。また、歩行時は「右足の膝から下に力が入らない」との記述があり、右下肢の片脚立位は行えなかった。立位や歩行時の中足趾節間関節の動きに対して確認すると「浮いていることはわかるが床に着けることはできない」と身体表現し、前足部に注意を向けることが困難であった。そこで前足部の運動に対して「認知課題」を構築し、以下の方法で下肢の体性感覚に注意を促した。1)坐位でセラピストが他動的に足部を把持し、足底をスポンジに接触させる(圧の識別)2)坐位・立位でセラピストが踵へ高さの異なる木片を挿入する(高さの識別)3)坐位・立位で足底に単軸不安定板を敷き、セラピストが他動的に内・外反方向に傾ける(傾きの識別)4)坐位でセラピストが他動的に体幹を前後に傾ける(傾きの識別)【倫理的配慮、説明と同意】 発表に関する内容、個人情報を目的以外には公表しないことを説明し同意を得た。【結果】 1)歩行時における中足趾節間関節の動きが認知できるようになり、FFRがみられるようになった。2)10m歩行時間が9秒36から7秒74(21%改善)、歩数が21歩から18歩(17%)へ改善した。また6分間歩行 では384mから405m(5%)へと延長した。3)右下肢の片脚立位が可能となり0秒から5秒77となった。4)腰部の疼痛はVASで2.3から1.9へ、歩行時のしびれはVASで7.1から0となった。【考察】 運動が成り立つためには感覚器からの情報を収集し、中枢神経がそれを選択・統合し実行に移すシステムが必要である。千鳥によれば、運動器は「力学器官」「実行器官」「情報器官」の機能を有しており、情報器官としての機能が的確に環境からの情報を捉えることができなければ、実行器官としての機能は誤った情報を基に活動しなければならなくなると述べている。本症例は関節可動域や筋力に著明な問題点はみられなかったが、歩行時に足趾が浮いた状態となっていた。立位においては腰椎前弯の減少や骨盤後傾の肢位をとっており身体重心が後方に偏位した姿勢であった。LSCS症例は脊髄内圧を減少させるために腰椎を屈曲位にする傾向があり、本症例においても安楽肢位をとることでこのような姿勢となったと考えられる。習慣化した姿勢の影響で前足部からの感覚情報を正しく入力することが困難となり、FFRが生じないことで足部のアームが短くなり、歩行効率を低下させていると推察した。そこで前足部に対して注意を促す目的でスポンジ課題や踵への高さ課題等を与えた。アプローチ開始当初、足底を床に接地した状態での足趾の運動が認知できていなかったが、治療を行っていく中で「足の趾が動いている」や「立った時に足の趾に力が入ると立ちやすい」との身体表現が聞かれるようになった。このようなことから、前足部に対して注意を向けることができ、前足部からの感覚情報を的確に処理できるようになったことが歩行能力の改善につながったと考える。【理学療法学研究としての意義】 RFは歩行を円滑に行うための重要な要素である。運動器疾患において、関節可動域や筋力に問題がないにもかかわらず、RFがみられない症例が多い。本症例に行ったアプローチはそのような症例に対しての一つの手段となり得る可能性がある。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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