理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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健常成人のハムストリングス伸張性に大腿前面部への軽擦が与える即時的影響
岡 泰星中谷 聖史西川 勝矢赤澤 直紀松井 有史北裏 真己
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p. Cb1401

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抄録
【目的】 我々は,第46回日本理学療法学術大会にてFinger Floor Distance(以下;FFD)をアウトカムとし,健常成人の大腿前面部への軽擦がハムストリングス伸張性に与える影響について報告した.しかし,先行研究では,240名の健常者を対象にFFDとStraight Leg Raise(以下;SLR)角度との関連性を調査した結果,SLR角度が75度以下の場合,SLRとFFD間の相関は低く(r=0.31),FFDはハムストリングス伸張性を反映する指標とは言い難いと結論づけている(Lopez, 2010).よって,本研究では,Huang(2010)らによってハムストリングスの伸長性を反映するとして信頼性・妥当性が報告されているSLR角度を採用し,健常成人のハムストリングス伸張性に大腿前面部への軽擦が与える即時的影響を調査した.【方法】 健常者12名の左右下肢24肢を対象とし,参加基準は大腿前面部に皮膚損傷,ハムストリングス損傷の既往がない者とした.研究デザインは1重盲検無作為化比較対照試験を採用した.対象下肢を無作為に軽擦介入下肢群(以下;軽擦群)とコントロール下肢群(以下;CON群)の2群に割り付けを行い,SLR角度測定者には割り付けが分からないようブラインドを実施した.軽擦群に対する介入肢位は,背臥位となった被験者に対して施行者は正座位となり,施行者の大腿上に股関節内外旋中間位とした被験者の一側下肢を位置させた.軽擦方法は,大腿長に応じて膝蓋骨上縁から近位25cm~30cmの範囲とし,軽擦方向は,膝蓋骨上縁から大転子に向かう方向とした.軽擦スピードは,1秒間に2ストロークするスピードとし,軽擦圧は大腿上で抵抗なく軽擦手を滑らすことの出来る圧とした.軽擦には片手第1指~第5指の中手骨頭~指腹部を用い,他手で介入側下肢の脛骨近位部を固定した.軽擦介入時間は60秒とした.CON群への介入は60秒の安静臥床とした.なお,軽擦介入またはコントロール介入は右下肢からとした.SLR角度測定は,両群介入前後にそれぞれ1回測定した.SLR測定では被験者の非測定側の大腿部がベッドから離れないよう固定し,測定者は,被験者の踵を包み込むように把持し,他手を被験者の膝蓋骨上に位置させSLR測定時の膝関節屈曲を防止した.SLR最終域は,Huangらの方法に従い徐々に被験者下肢を挙上させていき被験者が大腿後面筋に伸張痛を感じ始めた角度とした.SLR角度解析はデジタルカメラ(Canon;IXYDIGITAL60)で撮影した写真を基に画像解析ソフトImage J(National Institutes of Health)を使用し0.1°単位で3回解析し平均値を採用した.統計解析は両群のSLR角度のベースライン比較,両群の介入前後のSLR角度比較,両群のSLR角度変化量の比較に対応のあるt検定を行った.なお,本研究における統計学的有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 研究参加者には本研究の目的,方法,リスクなどを口頭および文書で説明し,署名にて同意を得た.【結果】 無作為割り付けの結果,軽擦群は右下肢5肢,左下肢7肢,CON群は右下肢7肢,左下肢5肢となった.介入前のSLR角度について,両群間に有意な差は認められなかった(p=0.132).軽擦群のSLR角度は介入前と比較して介入後に有意に高値を示したが(p=0.0003),CON群では有意差はなかった(p=0.14).両群のSLR角度変化量について,CON群(-1.0±2.2°)と比較して軽擦群(3.7±2.4°)が有意に高値を示した(p=0.0002).【考察】 軽擦群では,介入後にSLR角度が有意に高値を示し,SLR角度変化量がCON群と比較して有意に大きいことから,ハムストリングス伸張性改善に大腿前面部への軽擦が影響を与えた可能性が考えられる.ハムストリングス伸張性に大腿前面部への軽擦が影響を与えた機序について,大腿四頭筋の上面皮膚を,1秒間に2ストロークするといった比較的速い軽擦刺激が,皮膚受容器(速順応性受容器)を刺激し,同側性伸筋反射(伸筋である大腿四頭筋の興奮)が起こった結果,屈筋であるハムストリングスが抑制され伸張性の改善が得られたのではないかと推察する.本研究は健常成人を対象としておりハムストリングス伸張性が低下した症例に対する本アプローチの効果については言及できない.今後はハムストリングス伸張性が低下した症例を対象とし,臨床研究を実施することで大腿前面部への軽擦の有用性を明らかにしていきたい.【理学療法学研究としての意義】 ハムストリングス伸張性低下により膝関節伸展制限を有する患者に対し,ストレッチングや関節可動域運動を中心としたアプローチでは痛みや防御的筋収縮を伴い治療が難渋する場合を多く経験する.しかし,本アプローチは痛みを伴わず関節可動域を改善させる可能性があるという点で臨床的意義がある.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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