抄録
【背景】 我々長野県理学療法士会スポーツサポート部は長野冬季オリンピックを契機に、県内の様々なスポーツのメディカルサポート(以下サポート)を行ってきた。中でも高校野球サポートは、長野県高等学校野球連盟の要請にて、1999年より開始し2001年からは公式戦1回戦からサポート活動を行ってきた。スポーツ活動の主目的は適切な外傷処置のみではなく、障害の進行や発生を未然に防止することが重要であると考えてきた。しかし、大会サポートのみでは外傷対応が主体となり、対処療法の域を脱することができず、我々の目指す障害予防にはつながりにくいと考えた。そこで、2005年よりオフシーズンに長野県全域でのメディカチェック(以下MC)を開始し、選手個々の身体的課題を明確にしたセルフケアを指導して障害の進行発生予防に取り組んできた。また、各高校のクーリングダウン(以下CD)の希望をとり、理学療法士(以下PT)はCD予定に合わせて、試合当日に対応するシステムを作った。【目的】 今回の目的は、我々行ってきたサポート活動は障害予防に関与することができたかを大会サポートの利用状況の変化から検証することである。【対象】 2003年~2010年の8年間で長野県全国高等学校野球選手権大会(甲子園予選)において県内5会場でサポートを実施した679名の選手を対象とした。【方法】 方法はサポート評価表をもとに以下の2項目について調査・検討した。1)全対象選手の状況の検討利用選手数から年間平均利用者数を算出し、同一の選手が2回以上利用したかのリピート率を調査した。全利用選手のサポート実施時期、実施時の症状を調査し、実施時期を試合前・中・後に、症状は急性性期・亜急性期、慢性期に分類した。また、利用時の主訴を安静時痛、運動時痛、の有無として分類し、主訴のある部位を関節ごとに累計した。2)MC開始前後での利用状況の変化次に集計結果をもとに、2003年から2005年の利用選手を前期、2006年から2010年の利用選手を後期とし、MC前後にて調査項目に相違があるかを検討した。MCは長野県高校数98校中、各希望高校から3名程度を上限に参加希望をとり長野県内2か所で実施した。【説明と同意】 選手にはサポート実施の際に個人データの使用の可能性を説明し、許可を得た。【結果】 1)全対象選手の状況の検討年間平均利用選手数は84.8名、リピート率は24%であった。実施時期は試合前14%、試合中13%、試合後68%であった。症状は急性期、亜急性期を含む急性症状は53%(急性期29%、亜急性期24%)、慢性症状47%であった。主訴は安静時痛14%、運動時痛58%、疲労26%、その他2%であった。障害部位は肩関節が230件もっとも多く、ついで腰背部134件、肘関節128件であった。2)MC開始前後での利用状況の変化年間平均利用選手数は前期73.7名、後期91.6名であった。リピート率は前期25%、後期23%であった。実施時期には大きな変化はなかったが、症状は急性期・亜急性期を含む急性症状は前期66%から後期は45%に減少し、慢性症状は前期33%から後期53%へ増加した。主訴は安静時痛が前期17%、後期14%、運動時痛が前期74%、後期59%、疲労は前期21%、後期32%であった。後期は運動時痛が減少し、疲労が増加した。障害部位はその特徴に置変化はなかった。MCを契機に利用する選手層に変化が生じた。【考察】 前期と後期を比較すると、運動時痛が減少し、疲労症状が増加していることは、障害発生の前の疲労の段階でトレーナー室を利用していることが推察される。これは、運動時痛があるからではなく、選手・指導者の判断で来室し、障害予防のためのセルフケア指導ができたことを示唆するものである。連戦の続く大会期間の障害予防が強制的ではなく積極的予防の姿勢に変化してきたこと、また、継続的な大会サポートやMCを通じて、PTの活動内容が選手・指導者に理解されたことのも一要因であると考えられた。さらに、年間利用者数が後期にて増加していることは、障害予防のために実施している、MCや身体の自己管理指導の一定の成果が得られたと推察できる。CDを希望してきた選手の中には運動時痛をもっている場合も散見され、障害の進行を防止することの役割の一端を担うことができたとも考える。今後は、MC実施した選手に対して大会期間中のみではなく大会期間前のフォローアップ体制の模索と確立することが課題であると考えている。【理学療法研究としての意義】 高校野球のサポートは多くの都道府県で行われている。スポーツ現場での外傷対応の重要性は浸透したものの、障害予防の側面での成果報告は少ない。サポート活動はMCと並行して行うことで障害予防の一助となり得ると考えられ、その活動の意義は高いと考える