理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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スポーツ障害発症予測システム開発への手がかり
─サッカー選手の股関節障害発症メカニズムからの検討─
村上 憲治石井 壮郎宮川 俊平島田 周輔藤田 博曉石橋 英明
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p. Cd0835

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抄録
【はじめに、目的】 ここ数年、画像精度の向上などにより、発症後、早期に確定診断ができる事で早期の治療が可能となっている。理学療法分野でも早期介入が可能となり治療プログラムが確立されてきている。また、同時に予防的観点からの取組も盛んに行われており、スポーツに関する理学療法分野でも同様に、スポーツ現場への理学療法士の介入に伴い、傷害予防プログラムへの取組も盛んに行われ、さらに、治療でも、再発予防に向けたプログラムが早期の段階から組み込まれている。しかし、それらの予防に向けたプログラムは、発症メカニズムを充分に理解した上で行わなければならない。現在、発症メカニズム解明への取組は、受傷後の聞き取り調査や合併症からの推定、希に受傷時のビデオ解析等があるが、それらはRetrospectiveな検討であり再現をすることは困難である。そのため、Prospectiveな検討の必要性から、ここ数年、再現可能なシミュレーションによる発症予測の検討が僅かに行われ始めている。我々は独自に開発したシミュレーションシステムを用い、障害発症メカニズムの解明とスポーツ障害発症予測への取組を行っている。今回、サッカー競技における股関節周囲の障害に関し、有限要素モデルを用い、キック動作による股関節周囲にかかる力学ストレスの応力分布と障害との関連について検証した結果を、文献的考察を含め報告する。【方法】 被験者はサッカー経験のある成人男性1名である。サッカーにおいて基本的なキック動作である、インサイドキック、インステップキック、インフロントキックを、3次元動作解析装置と床反力計を同期したシステムにて計測した。得られた力学データは動力学解析ソフトウエア「SIMM」にて各動作の力学パラメーターを算出した。さらに、被験者のCT/MRIデータを骨強度評価ソフトウエア「MECHANICAL FINDER」を用い、PC上に骨・軟骨モデルを作成し、4面体のソリッド要素を用いた有限要素モデルを作成した。「SIMM」により算出した力学パラメーターのうち、関節間力が生体に何らかの影響を与えていると仮定し、大腿骨頭にかかる3要素の関節間力を、ひとつの合力に計算し、その値が最大となる時点の股関節角度データをモデル上に姿勢として規定し、大腿骨頭側から寛骨臼蓋へ向けて、関節間力を荷重条件として応力解析を行った。さらに比較するため、動作データを考慮しないデフォルトモデルに同荷重を与え応力分布の比較を行った。今回の計測は、計測環境の条件からボールは蹴れていない。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に対し、ヘルシンキ宣言に基づき、研究に参加するに際し受ける不利益等、及び倫理的配慮に関し口頭及び文章で説明を行い、同意後、研究の概要及び詳細を口頭及び文章にて行った。【結果】 デフォルトモデルによる応力分布は、仙腸関節部に高い応力分布がみられる結果となった。しかし各キック動作において、股関節間力の合力が最大となる姿勢を規定したモデルでは、いずれも股関節屈曲位であり、その時点での股関節周囲の応力は、3種類のキック動作ともに恥骨枝および寛骨臼蓋縁上前部・仙腸関節に高い応力分布を示した。【考察】 サッカーなどのキック動作を伴うスポーツにおいて問題となる股関節障害では、MRIによる画像所見で恥骨枝に骨髄浮腫を認める例がある。本研究の結果は、恥骨枝にかかる応力範囲が各キック動作でほぼ同一範囲となり、画像所見でみられる骨髄浮腫を生じる範囲とほぼ一致した。さらに、寛骨臼蓋上前部の高い応力分布は関節唇損傷が生じる部位とも一致しており、姿勢を規定することにより、関節唇損傷の発症要因である姿勢との関連性が認められた。これらの結果は、サッカーにおけるキック動作が股関節障害の一因となる可能性があると考えられる。このような有限要素法による応力解析の手法は、整形外科分野・歯科分野で行われている。しかし、それらは、デフォルトモデルに一定基準の条件を与えているのが一般的である。しかし、我々のシステムでは、個別要因も含め実際の動作データを反映することで、より現実に近い条件での検証が可能であると考えられ、さらに精度を向上させることで、傷害発症予測システムとして利用できる可能性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 我々がチャレンジしている障害発症予測システムは、PC上に作成されたモデルを使用するため、条件の変更や再現性の問題などがクリアでき、個体要因の規定もできるため多様な対応が可能となる。そのため、障害発症に関するProspectiveな検討が可能となり、障害予防プログラムのさらなる効率化できる可能性があると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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