理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
Direct Anterior Approachによる低侵襲人工股関節全置換術後のT字杖歩行獲得に影響を及ぼす術前因子の検討
高木 寛人松原 修中村 和司山川 桂子松永 佑哉井上 英則藁科 秀紀
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p. Ce0113

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抄録
【はじめに、目的】 低侵襲人工股関節全置換術(以下,MIS-THA)における術後歩行能力に影響を及ぼす因子は報告されている.それらの検討は,術後歩行自立までの日数で早期群と遅延群に分類し比較したものが多く,影響を与える因子として,術前後の筋力,荷重時痛,術前歩行能力,歩行速度, Charnley Categoryなど多くの因子が報告されている.このように術後歩行能力に影響を与える因子は様々であるが,それらの影響度や具体的な数値は検討されていない.  そのため本研究では,術前因子に着目し,筋間進入法であるDirect Anterior Approach(以下,DAA)における術後T字杖歩行自立の可否に及ぼす影響について検討する.【方法】 対象は2007年7月から2011年4月までにDAAを施行した101名101股とし,性別はすべて女性とした.術前歩行能力の基準はT字杖を用いて連続400m以上歩行可能なものとした. 比較分類は術後5日目におけるT字杖400m連続歩行が可能であった群(以下,可能群)と不可能であった群(以下,不可能群)に分類した.比較項目は,基本属性として年齢・BMI・手術側・charnley category・日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下,JOAスコア),術前筋力は股関節屈曲・伸展・外転・内転,膝関節屈曲・伸展筋力,術前可動域は股関節屈曲・伸展・外転の14項目を調査・測定した.  術前筋力の測定は,徒手筋力測定器(Hoggan Health社製MICRO FET2)を用いて測定した.筋力測定法はBohannonの方法に準じた.しかし,股関節屈曲・伸展筋力の測定肢位は,可動域制限の影響により側臥位で行った.筋力値は,最大等尺性筋力を2回測定し,その平均値をトルク体重比(Nm/kg)にて算出した.  統計手法は,2群間において,基本属性・術前筋力・術前可動域を比較検討した.次に2群間で有意差が認められた因子についてロジスティック回帰分析を行った.ロジスティック回帰分析では,オッズ比を用いて術後T字杖歩行自立に影響する因子を抽出した.さらにROC曲線を用いて抽出された因子についてカットオフ値を求めた.いずれも有意水準は5%未満とし,これら統計処理にはDr.SPSS2 for windows(日本IBM)を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】 各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した.【結果】 両群間の比較(可能群/不可能群)においては,股関節屈曲筋力1.15±0.43/0.94±0.35Nm/kg,股関節伸展筋力0.78±0.36/0.57±0.25Nm/kg,股関節外転筋力1.11±0.38/0.79±0.28Nm/kg,股関節内転筋力1.04±0.31/0.87±0.31Nm/kg,膝関節屈曲筋力0.76±0.26/0.58±0.20Nm/kg,膝関節伸展筋力1.35±0.44/1.03±0.33Nm/kg,股関節屈曲可動域96.3±19.0/83.4±19.5°,JOAスコア46±11.3/38.6±12.3点と有意差を認めた. ロジスティック回帰分析では,股関節外転筋力のみが抽出された.オッズ比は,0.10Nm/kg増加に対し1.259倍となった.ROC曲線では,股関節外転筋力のカットオフ値は0.89Nm/kgとなり,感度78.8%,特異度74.3%,正診率77.2%であった.【考察】 DAAにおける術後機能回復に影響を及ぼす因子は報告されている.中田らは,術前JOAスコアの歩行能力が10点以上のものは,患肢片脚立位可能時期,患肢Trendelenburg徴候消失時期が早いと報告している.また,佐久間らは,術後1週目での5秒間片脚立位に影響を及ぼす因子は,術前股関節外転筋力とし早期退院をより安全にするためには術前からの股関節外転筋群へのアプローチが重要であると報告している.これらより,術前歩行能力と術前股関節外転筋力は術後患肢片脚立位能力に影響を及ぼし術後機能回復に重要な因子と思われる. DAAは,外転筋群を温存する術式である.そのため,術前の股関節外転筋力が高いものほど,術後T字杖歩行における側方安定性が保たれるため,最も重要な因子となったと思われる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より,術前股関節外転筋力から術後T字杖歩行能力を予測できることが示唆された.これらの結果は,術前からの筋力増強練習の目標値や術後歩行能力の予測が可能となり,術前後の理学療法スケジュールの目安になると考えられる.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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