抄録
【はじめに、目的】 固有受容性神経筋促通法 (PNF) の骨盤のパターンを用い、脳卒中後片麻痺患者や下肢に整形外科的疾患を有する患者を対象に関節可動域の改善 (上広ら: 2004) や歩行時間 (柳澤ら: 2011, 新井ら: 2011) が短縮することが報告されている。これらの効果の神経生理学的分析として、新井ら (2003) は橈骨神経を電気刺激して総指伸筋からの誘発電位を分析した結果、安静時と比較し骨盤の前方挙上 (挙上及びわずかな前方回旋・後傾) 中間域での抵抗運動による静止性収縮 (SCAE) 時に抑制されSCAE後に振幅値の増大と潜時の短縮が生じたことを報告している。また、右下肢のPNF運動 (複合面) と矢状面での運動を機能的磁気共鳴画像 (fMRI) を用い比較した結果、右小脳が賦活したと報告 (Kurumaら: 2008) はあるが、fMRIを用いて骨盤の抵抗運動方向の違いが脳活動に及ぼす効果の差異を検証した報告はない。今回の研究の目的は、SCAEと前額面での体幹の回旋を伴わない骨盤挙上の抵抗運動による静止性収縮の促通 (SCE) が脳活動に及ぼす影響の差異を検証することとした。【方法】 対象は神経学的な疾患の既往のない右利き健常成人18名 (男性9名、女性9名、平均年齢 (範囲) 23.1 (21-25) 歳) であった。課題は2種類設定し、課題1は一側骨盤のSCAE、課題2は一側骨盤のSCEを行なう2つの課題を右骨盤に行った。課題を30秒、安静を30秒とし、1課題を3回繰り返すことを1セットとし、各課題1セットずつ左下の側臥位で右骨盤に行なった。課題はランダムに配置し、各課題間は安静を挟む (ブロックデザイン) ようにして撮像した。測定装置はPhilips社製3.0T臨床用MR装置を使用した。測定データはMatlab上の統計処理ソフトウェアSPM8を用いて動きの補正、標準化ののち平滑化を行なったあと集団解析を行い賦活部位の特定を行った。次に、両課題共に賦活が観察された部位に対し、その賦活の程度に差があるか検証する目的で、各領域の最もBOLD信号 (t値) が高い座標について% signal changeを算出し、% signal changeを指標として統計解析は反復測定分散分析を行なった。交互作用が認められた場合は全ての条件間の多重比較をBonferroniによって行なった。有意水準は5%とした。統計解析にはSPSS for Windows (Version 19) を用い統計解析を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は首都大学東京安全倫理審査委員会において承認を得、研究同意書に署名を得た人を対象とした。また、対象者には研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明した。【結果】 集団解析の結果、SCAE・SCE両課題ともに賦活が認められた領域は、両側感覚運動野・両側大脳基底核・両側小脳および左補足運動野であった。これに対してSCAEのみで賦活が認められた領域は、両側視床と両側脳幹および右補足運動野であった。反復測定分散分析の結果、左大脳半球・右大脳半球共に課題×賦活領域で交互作用が認められた (左: F=4.78,p=0.005、右: F=6.46,p=0.004)。さらに多重比較検定を行った結果、左補足運動野ではSCEに高い賦活が認められ (F=9.11,p=0.008)、右小脳ではSCAEに高い賦活が認められた (F=7.27,p=0.02)。【考察】 両課題で両側感覚運動野・両側大脳基底核・両側小脳および左補足運動野の賦活が認められたが、右小脳はSCAEのみで有意な賦活が認められた。両側視床と両側脳幹および右補足運動野の領域もSCAEのみで賦活が認められた。SCEは体幹の回旋筋群は関与していないがSCAEでは体幹回旋が関与している。下肢においてはKurumaら (2008) は、矢状面での運動をfMRIで比較した結果、矢状面運動では賦活が認められなかったが、下肢の回旋を伴う右股関節の屈曲-内転-外旋のPNF運動パターン時に右小脳の賦活が認められたことを報告している。今回の結果においても股関節回旋運動による脳の賦活と同様に、SCAEによる脳活動の賦活は、体幹回旋筋群が関与したことが推定される。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究により、骨盤の回旋筋群の静止性収縮を促通することにより、脳活動の賦活を検証できた。この脳活動の賦活は、理学療法における運動パターンの選択の重要性を意味し、複合面での回旋筋群を含む運動の誘発の重要性が示唆された。