理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

専門領域 口述
変形性膝関節症に対する母趾内転筋の伸張の即時効果
増野 雄一三好 麻希田頭 勝之髙石 義浩
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Ce0117

詳細
抄録

【はじめに、目的】 変形性膝関節症(以下膝OA)患者は、膝関節の内反変形、屈曲・伸展制限などから生じる足部への運動連鎖により、距骨下(以下ST)関節の回内、回外運動の協調性低下を招き長短腓骨筋、後脛骨筋の機能が低下すると考えられる。長腓骨筋(以下PL)は、母趾内転筋(以下AH)斜頭の深層を通るため、加賀谷によるとAH斜頭の伸展性低下はPLの滑動性を低下させると述べている。膝OA患者に対してAHの伸張を実施することで、PLの賦活化によりST関節の運動や足趾の開排運動の改善が期待できる。本研究の目的は、膝OA患者に対するAHの伸張が、足趾の開排運動やバランス能力、歩行能力等に及ぼす即時効果を明らかにすることである。【方法】 対象は、片側もしくは両側の膝OAを有し、屋内独歩、片脚立位が可能な患者32名(男性6名、女性26名、平均年齢78.2±4.6歳)であり、除外基準は、強度の腰痛、中枢・末梢神経障害、感覚障害を呈する患者とした。対象者のうち膝OAは60肢、健常膝は4肢であり、膝OAを有する60肢に対してAHの伸張を行った。AHの伸張は、加賀谷が提唱する「両手で第1趾および第5趾の中足骨から趾節部を把持し、上下に揺する感じで開排伸張する」方法を2分間行った。評価項目は、10m歩行の(1)時間(秒)および(2)歩数、(3)Time up & go テスト(以下TUG)(秒)、(4)片脚立位時間(秒)、(5)Functional Reach Test (以下FRT)(cm)、足趾の開排自動運動時の(6)足趾末梢部横幅(mm)(母趾の外側突出部と小趾の外側突出部)と(7)MP関節部横幅(mm)(母趾のMP関節外側と小趾のMP関節外側)をノギスにて測定し、介入前後を比較分析した。統計処理はSPSS ver.11.5を使用し、介入前後における各評価項目の平均値を対応のあるt検定およびWilcoxon符号付順位検定にて分析した。また、有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、本研究の趣旨を十分に説明した後、署名にて同意を得た。【結果】 介入後、有意差(p<0.05)を認めた項目は、10m歩行時間(介入前:11.0±2.6秒→介入後:10.1±2.2秒)、10m歩数(21.0±4.5歩→19.7±4.2歩)、TUG(12.2±2.5秒→11.0±2.3秒)、片脚立位時間(右側12.1±15.5秒→16.1±19.3秒、左側16.4±20.8秒→20.9±21.8秒)、FRT(22.6±7.2cm→25.1±6.9cm)、足趾末梢部横幅(右側81.4±9.9mm→83.2±10.8mm、左側82.7±8.9mm→84.1±9.0mm)、右側MP関節部横幅(80.5±6.1mm→81.8±5.9mm)であり、左側MP関節部横幅のみ有意差を認めなかった。【考察】 本研究で膝OA患者にAHの伸張を行った結果、10m歩行時間、10m歩数、TUG、片脚立位時間、FRT、足趾末梢部横幅、右側MP関節部横幅に有意差を認めた。入谷によると立脚中期でPLが後脛骨筋と共に外転、内転の同時収縮をすることで、足根骨の内外側からの圧迫により足根骨を水平固定し、また推進期において、PLの活動は足関節底屈を補助したまま立方骨を持ち上げ、短腓骨筋の補助を受けて足部外側を持ち上げ内側への荷重が可能になると述べている。これらのことから、推進力が向上し、10m歩行時間および歩数、TUGが改善したと考える。I.A.KAPANDJIは、足底弓蓋の彎曲の変化と柔軟性によって、不整地への適応がなされ、体重やからだの移動によって生じた力を地表に伝達することが可能になるとしている。このことから、2分間のAH伸張がPLを賦活し、さらにAHの収縮機能の向上により、3つのアーチで構成される足底弓蓋の地面への適合能力が向上し、バランス能力の指標であるFRTや片脚立位時間が改善したと考えられる。 今回、AHの伸張によって歩行能力、バランス能力等が向上した。10m歩行時間、TUG、FRT、片脚立位等のテストは転倒予測のスクリーニングテストとして使用されており、これらの項目において有意に改善を認めたことにより、AHの伸張が転倒予防の一助となる可能性が示唆された。 今後の課題として、コントロール群との比較分析や継続してAH伸張を行うことによる長期効果の追跡調査を行いたい。また2分間のAH伸張を患者に指導し、継続することによる転倒予防への波及効果も検証したい。【理学療法学研究としての意義】 今回、膝OA患者に対してAHの伸張を行ったことにより歩行能力、バランス能力等に即時効果があることが示唆された。介入後、有意に向上した10m歩行時間および歩数、TUG、FRT、片脚立位時間等は、転倒予測のスクリーニングテストとして使用されており、AHの伸張は転倒予防の一助となりうると考える。

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top