抄録
【はじめに、目的】 慢性閉塞性肺疾患患者(COPD患者)は呼吸困難感が原因で運動耐容能が低下していることが多い。これまでの報告では、呼吸困難感は換気量の増加に伴って増強し、換気量一定条件下では高二酸化炭素血症および低酸素血症によって強まることが明らかとなっている。 本研究の目的は、運動開始前からの意識的な換気量の増加が、高二酸化炭素血症および低酸素血症の進行を抑制し、呼吸困難感および運動耐容能を改善させるかどうかを検証することである。【方法】 対象は酸素療法を行っていないCOPD患者14名(男性12名、年齢63.5±10.8歳、%一秒量42.6±13.6%)とした。各対象者に対して、トレッドミルを用いた定常負荷試験を同日に2度実施した。1度目は、自由呼吸下での歩行(Spontaneous Ventilation-Walking; SV-W)とし、2度目は、歩行開始1分前より意識的に換気量を増加するように指示した条件下での歩行(Voluntary Hyperventilation-Walking; VHV-W)とした。VHV-Wでは、歩行中も常に換気量増加を意識し続けるよう声かけを行った。なお、定常負荷試験の終了基準は、呼吸困難感の程度が修正Borg scaleにて5段階“強い”に到達した時点とした。測定項目は、歩行時間、経皮的酸素飽和度(SpO2)、分時換気量(VE)、二酸化炭素排出量(VCO2)、酸素摂取量(VO2)、呼気終末二酸化炭素分圧(ETCO2)とし、対象者の高二酸化炭素血症はETCO2にて、低酸素血症はSpO2にて間接的に評価した。SV-WとVHV-W間での主要比較項目は歩行時間とし、副次的比較項目は、安静時(歩行開始1分前)から歩行終了時(SV-WとVHV-Wのどちらか一方が先に歩行終了した時点)までの総換気量(total VE) 、総二酸化炭素排出量(total VCO2)および総酸素摂取量(total VO2)、安静時(歩行開始1分前)・歩行開始時・歩行終了時でのVE 、ETCO2およびSpO2とした。なお、2群間の比較には対応のあるt検定を用い、危険率5%未満にて統計学的に有意と判定した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を得ており、各対象者には本研究の説明を十分に行い、自由意思による同意を得た上で行った。【結果】 (1)歩行時間はSV-W 98.0±38.2秒、VHV-W 114.2±37.9秒であり、VHV-Wにて有意に高値であった。(2)安静時のVEはSV-W 10.8±2.7L、VHV-W 10.1±2.1Lであり、有意差を認めなかった。歩行開始時のVEはSV-W 10.6±2.6L、VHV-W 16.4±3.9Lであり、VHV-Wにて有意に高値であったが、歩行終了時のVEはSV-W 28.8±10.4L、VHV-W 28.9±13.1Lであり、有意差を認めなかった。total VEはSV-Wと比べVHV-Wにおいて全例で高値であった。(3)安静時のETCO2はSV-W 32.1±4.1mmHg、VHV-W 31.6±4.0mmHgであり、有意差を認めなかった。歩行開始時のETCO2はSV-W 32.0±3.6mmHg、VHV-W 27.4±3.2mmHgであり、VHV-Wにて有意に低値であった。歩行終了時のETCO2はSV-W 37.4±6.0mmHg、VHV-W 35.6±6.0mmHgであり、有意ではないがVHV-Wにて低値を示す傾向を認めた(p=.056)。total VCO2はSV-W 1.14±0.69L、VHV-W 1.28±0.69Lであり、VHV-Wにて有意に高値であった。(4)安静時のSpO2はSV-W 95.9±0.8%、VHV-W 95.7±1.3%であり、有意差を認めなかった。歩行開始時のSpO2はSV-W 96.1±0.9%、VHV-W 97.3±0.7%、歩行終了時のSpO2はSV-W 88.4±3.6%、VHV-W 90.2±4.6%であり、VHV-Wにて有意に高値であった。total VO2はSV-W 1.28±0.80L、VHV-W 1.34±0.80Lであり、VHV-Wにて有意に高値であった。【考察】 VHV-Wでは歩行時間が有意に増加しており、運動耐容能の改善を認めた。先行研究より、換気量一定条件下での高二酸化炭素血症および低酸素血症の緩和は呼吸困難感を軽減することが報告されている。本研究において、歩行終了時のVEはほぼ限界にまで増加した状態であったと考えられ、有意差を認めなかったが、total VEはVHV-Wにて全例で増加していた。歩行終了時のETCO2はVHV-Wで低値を示す傾向を認め、SpO2は有意に高値を示したことから、VHV-Wでは歩行終了時点よりも前での換気量増加によって高二酸化炭素血症および低酸素血症が緩和されたと推察される。SV-Wと比べてVHV-Wでは二酸化炭素排出および酸素摂取が促進されたため、呼吸困難感が軽減し、運動耐容能の改善につながったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究で得られた知見は、COPD患者の呼吸困難感および運動耐容能の改善に寄与するものであり、日常生活内だけではなく効果的な運動療法を行っていく上でも有用であると考える。