抄録
【はじめに、目的】 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の6分間歩行距離テスト(6MWD)を行う際、症状の評価として、6MWD前後のSpO2、脈拍、修正Borgスケールを用いて呼吸困難感、下肢疲労感を測定する。6MWDにおけるSpO2や呼吸困難感、下肢疲労感についての研究は多く行われているが、脈拍の反応に関しての研究は少ない。今回、6MWD前後の脈拍の上昇率に着目し、上昇率の高値群と低値群で身体特性に違いがあるのかを比較検討した。【方法】 対象は、安定期男性COPD患者101名である。平均年齢は74.7±8.9歳、BMIは 20.6±3.7であった。GOLDの重症度分類は、1期が8名、2期が33名、3期が34名、4期が26名であった。なお、対象の選定においては、重篤な内科的合併症の有する者、歩行に支障をきたすような骨関節疾患を有する者、脳血管障害の既往がある者、その他歩行時に介助を有する者、理解力が不良な者、測定への同意が得られなかった者は対象から除外した。測定項目は、6MWD(距離、測定前後の脈拍)、修正MRC息切れスケール(mMRC)、update BODE Index、呼吸機能検査、呼吸筋力検査(最大吸気口腔内圧(MIP)、最大呼気口腔内圧(MEP))、握力、膝伸展筋力、片脚立位時間、5m最速歩行速度、Timed Up and Go Test(TUG)、日常生活動作テストは長崎大学呼吸ADL質問票(NRADL)、健康関連QOLはSt George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)とした。なお、脈拍上昇率は6MWD測定後の脈拍を測定前の数値と比較して求めた。統計学的解析は、6MWD前後の脈拍上昇率を中央値で分け、脈拍上昇高値群と脈拍上昇低値群の2群に分け、各測定項目を独立サンプルによるt検定で2群間の特性を分析した。なお、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象に研究の趣旨、方法、公表方法、同意の撤回などについて文書を用いて口頭にて説明をした上で同意を得た。なお、本研究は、佐賀大学研究倫理委員会にて研究の倫理性に関する審査、承認を得て実施した。【結果】 6MWD前後の脈拍上昇率は22.1±11.2%であった。中央値で分けた22.3%以上群(51名)は30.3±9.2%、22.3%未満群(50名)は13.8±5.3%であった。その2群間において6MWD(370.7±129.3vs307.2±152.2m;p=0.026)、%FVC(83.0±21.5vs73.7±23.0%;p=0.042)、握力(31.6±8.5vs28.1±8.1kg;p=0.039)、%膝伸展筋力(57.3±14.5vs48.3±15.8%;p=0.005)、片脚立位時間(53.9±39.3vs34.5±38.3秒;p=0.049)、5m最速歩行速度(106.2±28.7vs92.6±25.7m/min;p=0.047)、に有意差が認められた。なお、mMRC、update BODE Index 、%FEV1、FEV1%、呼吸筋力、TUG、CS-30、NRADL、SGRQに有意差は認められなかった。【考察】 今回の結果から6MWD前後の脈拍上昇率は、FVC、膝伸展筋力、片脚立位時間、6MWD、5m最速歩行速度などで有意差を認めた。このことから、脈拍の上昇率が低い患者ほど身体機能などが低下している可能性が示唆された。また、脈拍上昇低値群に運動負荷量に応じた心拍数の上昇が得られないのは、身体機能や運動耐容能の低下などから心拍数予備能が低下している可能性が推測される。脈拍上昇高値群では低値群に比べ身体機能や身体能力が高くなっており、6MWD中により長い距離を歩くことが可能になることが考えられる。そして、測定中に歩行距離が長くなればなるほど、高い負荷になることが推測され、それに応じた脈拍の上昇がみられたと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究では6MWD前後の脈拍の上昇率と6MWD、%FVC、握力、%膝伸展筋力、片脚立位時間、5m最速歩行速度に有意差が認められた。したがって、6MWDの際の脈拍の上昇率は、6MWD、%FVC、握力、%膝伸展筋力、片脚立位時間、5m最速歩行速度の低下を推定する一指標として考えられる可能性が示唆された。