抄録
【目的】 COPDの併存症として,肺癌,虚血性心疾患,高血圧,糖尿病,睡眠障害,肝疾患などがあげられる.その中でも肺癌による開胸肺切除術において,COPDは術後肺合併症のリスクを高めてしまう要因であると言われている.そのためCOPD患者の術後肺合併症の発生率を検討した研究は多いが,術後の呼吸機能変化および運動耐容能変化を非COPD患者と比べた研究は少ない.本研究の目的は,開胸肺切除術前後の呼吸機能変化と運動耐容能回復が,COPD群(C群)と非COPD群(N群)とで差を認めるかを検討することにある.【方法】 開胸肺切除術が施行され,術前後に呼吸機能,運動耐容能,呼吸困難が評価可能で,研究に同意した44例を対象とした.FEV1.0%が70%以下の17例をC群,71%以上の27例をN群の2群に分類し検討した.各測定項目は,術前および術後退院時に測定した.また対象者全例に,当院の呼吸器外科術前術後プログラムに則って呼吸リハビリテーションを施行した.術前呼吸機能,術後呼吸機能,また,術前と術後の呼吸機能の変化率を(術前値-術後値)÷術前値×100)で計算し,検討した.運動耐容能の評価は, 6分間歩行試験(6MWT)を用い,6分間歩行距離(6MWD)の変化量を(術前6MWD-術後6MWD)で計算し,検討した.労作時呼吸困難評価は術後6MWT後の修正Borg Scale,安静時呼吸困難は術後VASにて検討した.呼吸機能,6MWD,安静時呼吸困難,労作時呼吸困難をC群とN群に分けた場合の群間比較は,対応のないt検定を用いて検討した.また,それぞれの術前値と術後値の比較は,対応のあるt検定を用いて検討した.各測定値は,平均値±標準偏差で表示し,有意水準5%未満をもって有意差ありと判断した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究対象は,当院倫理委員会の承諾を得た上で,全例とも本研究の趣旨を文書および口頭による説明をし,同意が得られた者とした.【結果】 呼吸機能は,C群,N群ともに術前後で,術後VC%,VC,FEV1.0は有意に低下した(p<0.01).しかしFEV1.0%はC群が術前59.3±9.3%から術後67.0±11.7%(p<0.01)と,N群術前78.7±5.5%から術後80.2±8.3%(n.s)とC群が術後に有意に高くなった.また術後VC変化率では2群間で有意な差は認めなかったが,FEV1.0変化率でC群13.0±17.6%,N群27.4±14.0%でC群が有意に低値を示した(p<0.01).その他6MWD変化量に関しては,C群が34.3±51.3mでN群が49±73.8mと統計学的有意差は認められなかった.また安静時呼吸困難は,C群が12.9±14.3mmでN群が19.9±23.2mm,そして労作時呼吸困難は,群が3.9±1.2,N群が3.7±2.2でともに統計学的有意差は認められなかった.【考察】 本研究は,開胸肺切除術前後の呼吸機能変化と運動耐容能回復が,C群とN群とで差を認めるかを検討した.呼吸機能に関しては,両群ともに術後有意に低下したが,C群でFEV1.0の変化率が小さく,FEV1.0%が術後に改善した.VC変化率に関しては両群間に有意差を認めなかったことを考えると,単純に容量の低下と言うよりは,これまでの閉塞性換気障害のある患者に対しての肺癌肺切除術の報告同様の結果であり,肺弾性収縮力の改善,残存肺の拡張等のLVRS様効果により,FEV1.0の低下率がC群で低値となったと考える.しかしC群においてFEV1.0の低下率が少なかったにもかかわらず,術後の6MWD変化量,術後の安静時および労作時呼吸困難で両群間に有差を認めなかった.この件に関しては,術後リハビリテーションは両群間ともに同様のプログラムを実施しており,それが運動耐容能維持に関与し,両群間に有意差を与えなかったと考えられる.実際にC群とN群でFEV1.0の回復に差は生じたが,C群でも術前に比べると術後FEV1.0は低下しているため,運動耐容能,呼吸困難に影響が生じなかったと考えられる.以上のことから,C群とN群では,開胸肺切除術後の呼吸機能改善に違いが生じるが,運動耐容能回復は両群ともに術後リハビリテーションを実施すれば同様の効力を持って回復すると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究で,術後のリハビリテーションを継続実施すれば,閉塞性換気障害がある症例でも,閉塞性換気障害がない症例と同様に呼吸機能,運動耐容能は改善することがわかった.よって閉塞性換気障害のある肺切除症例に対しての術後のリハビリテーションは,肺合併症予防だけでなく,運動耐容能維持にも重要であると考える.