理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
肝膿瘍による敗血症でDIC及び多臓器不全を併発したが歩行獲得し自宅退院した一例
文沢 靖木下 聖唐沢 紗季子小林 亨大見 朋哲岩田 恵子山本 智清
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p. Da0323

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抄録
【はじめに】 敗血症の重症例は生命予後も不良で致死率38-59%と早期集中治療が課題の疾患であり、そのダメージがきっかけで寝たきりになる例も少なくない。今回我々は肝膿瘍による敗血症でDIC及び多臓器不全を併発したが、歩行を獲得し、自宅退院した症例を経験した。適切なタイミングで離床を開始し、ペダリング運動が有効であったものと考えられ、一連の経過が敗血症性ショック後の理学療法(以下PT)の効果を考察するうえで一助になり得ると考え報告する。【方法】 症例は81歳男性。H23年5月X日に発熱と酸素飽和度低下を認め、独歩で当院救急外来を受診した。診察中にショックバイタルを呈し緊急入院となる。既往歴は高血圧・肺高血圧症。入院前のADLは全自立で農業を営んでいた。肝膿瘍と診断され同日経皮的肝膿瘍ドレナージ術施行。第2病日に肝膿瘍に伴う敗血症性ショックとなり呼吸状態の悪化を認め人工呼吸器管理となった。入院時臨床検査値は総ビリルビン1.6 mg/dl、AST(GOT)180 U/L、ALT(GPT)122 U/L、ALP 559U/L、LDH 532U/L、γ-GTP 93U/L、BUN 55.6mg/dl、Cre 1.51mg/dl、WBC 24730個、RBC 406万個、HGB12.4g/dl、HCT37.2%、FIB 782mg/dl、血中FDP 25.15μg/ml、 PLT 110000個、PT-秒 15.2秒、PT-INR 1.20INR、APTT 41.7SECOND、Dダイマー 6.32 μg/ml、NT-proBNP 947.2pg/ml、血ガスはpH 7.339、PaCO2 27.4 mmHg、PaO2 78.4 mmHg、HCO3- 14.4 mmol/L、BE -9.8 mmol/Lであった。その後胸腔ドレナージ術など施行し、第17病日に人工呼吸器より離脱した。第18病日よりPT開始。意識レベルGCS(E3V4M5)と意志疎通が困難で、全身に強い浮腫および黄疸を認めた。PTはROM訓練および呼吸練習より開始し、全身状態の指標として尿量や浮腫の状態・臨床検査値に着目し継続した。第39病日で尿量の顕著な増加を認め、検査上腎機能の改善傾向を示していた(Cre 3.48→1.61 mg/dl、BUN 113.3→60.5 mg/dl)。視診上も浮腫が軽減していたため(膝上5cm大腿周径 (右/左) 47.5/44.5cm→39.5/35cm)、主治医と協議を行ない段階的にADL練習に移行した。PTは座位保持練習より開始し、重介助ながらも起立から歩行練習へと移行した。歩行練習中はSpO2の顕著な低下は認めなかったが動作時の呼吸苦が継続した。また約4週の集中治療に伴う廃用性症候群のため、連続歩行20m、連続歩行時間30秒程度の耐久性であり持続したPTが困難であった。そのため長めの練習を考慮し半臥位型自転車エルゴメーター(AEROBIKE 2001R (株)コンビウェルネス)を用いた低負荷のペダリング運動を追加した。【説明と同意】 患者には症例報告の趣旨や内容について十分な説明を行い書面による同意を得た。【結果】 入院第51病日には歩行器歩行練習を施行し、第57病日に歩行器から4点杖に変更した。ペダリング中は呼吸苦が軽減され20Wで連続6分間可能となり、ペダリング後は歩行リズムも向上した。第60病日には看護師の監視下でトイレ歩行が可能となり、入院から76日で自宅退院となった。退院後は訪問リハへ移行し、発症から約3ヶ月で自宅内および自宅周辺の歩行は自立した。【考察】 臨床検査値に示されるように重症敗血症・DICの患者である。約2ヶ月の入院期間のうち、PTは約1ヶ月半の施行期間で歩行を獲得し自宅退院に至った。敗血症性ショックによる集中治療を経て18日目でのPTの介入となり、開始時は呼吸状態・体液管理が不良な状態でROMや呼吸PTなどのコンディショニングが中心に留まったが、PT経過中は投薬内容・臨床検査データ・輸液・尿量を評価しIn-Outのバランス・浮腫の状態など着目しPTを進めていた。その結果ショック後の状態から改善傾向を示す利尿期の時期を推察でき、またそのことで主治医との連携が円滑に実施され、坐位起立などの離床を中心としたADL練習へ速やかに移行できたことが廃用性症候群を最小限に止めることができたと考えられる。経過中ペダリング運動を実施したが、RaaschやFujiwaraらは歩行とペダリング運動は筋活動パターンが類似し、脳卒中の麻痺側下肢の教育や歩行の筋活動のパターンを再教育するに有効な手段となると報告している。本症例は脳卒中の麻痺による歩行困難例ではないが、敗血症や重度の内科疾患で呼吸困難などを伴った廃用性症候群で連続した歩行練習など実施できない患者に対してのPTとしても有効手段になり得るとも考えられた。入院から76日と長期在院期間となったが、敗血症性ショック後の状態から歩行獲得で自宅退院できたことは満足のいく結果であった。【理学療法学研究としての意義】 重症敗血症の患者の治療を通じ、臨床検査データや投薬内容・尿量などで患者の治療状況および全身状態を把握、重症例の内部障害PTの進め方の一端を報告することが出来たと考える。本症例のような重症例の報告が蓄積されることが、急性期PTのエビデンスの構築に繋がり、その意義は強いものと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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