抄録
【目的】 透析患者に対する運動療法介入については,身体機能の改善を認めるとの報告が多くなされており,最大酸素摂取量の増加や左室収縮機能の亢進が認められるとされている.一方で,運動療法介入による過負荷が原因の悪影響についての報告も散見され,心不全の増悪や脳卒中の発症の危険性が増大するとされている.また,新たな運動時間の確保が難しい事も報告される.週3回の透析時間以外での運動療法の介入では,運動継続の脱落率が高いとされている.そこで近年,過負荷予防と運動時間確保について利点のある,透析中の運動療法介入が注目されている.医師監視下による適切な運動負荷である点,運動時間確保の容易な点などによって,過去の報告で運動脱落率の低減が示されている.しかしながら,透析中の運動療法介入について,どのような患者が対象となるかという視点についての報告は非常に少ない.過去の学会において,我々は全身筋肉量の指標として透析対象者全般で評価可能な%クレアチニン産生速度(以下,% CGR)を用いて,運動療法開始前のどの生化学的データが透析中運動療法介入の効果を予測し得るか検討を行った.その結果,透析前の尿素窒素とカルシウムが透析中運動療法介入の効果を予測する指標となる可能性が示された(R2=0.84).しかし,変動の大きい% CGRという指標であるにも関わらず,運動療法開始前と開始後6ヵ月時点の値のみで検討したため,その患者の改善傾向を適切にとらえているものとは言えなかった.本研究においては,改善傾向を示す値として毎月計測した% CGR(12か月間)からその傾きを求めた.次に,その傾きを目的変数,生化学的データおよびその他の関連するデータを説明変数として重回帰分析を行い,予測に必要な説明変数について検討を行った.【方法】 対象者は透析中の運動療法が可能と医師が判断した7名であった.内訳は入院4名・外来3名,男性3名・女性4名,平均年齢 69.7 ± 8.4歳であった.介入頻度は週3回,運動時間は透析開始後 2時間以内とした. 場所は透析室内ベッド上とし,運動療法施行時は医師・看護師確認の下で実施した.内容は関節可動域訓練,背臥位で行える筋力増強訓練,下肢交互屈伸動作による持久力訓練,頚部および胸郭のリラクセーションとした.リスク管理として運動毎に血圧・脈拍・自覚的疲労度を測定した.まず透析前には,尿素窒素,クレアチニン,ナトリウム,カルシウム,リン,アルブミン,血清総蛋白を計測した.また,開始前と開始後12カ月分(毎月1回計測)の生化学的データから%CGRを算出し,線形回帰によってその傾きを求めた.最後に,目的変数を%CGRの傾き,説明変数を年齢,透析前の尿素窒素,クレアチニン,ナトリウム,カルシウム,リン,アルブミン,血清総蛋白をそれぞれ対数変換した値とし,ステップワイズ増減法による重回帰分析によって有効な変数を決定した.【説明と同意】 本研究の実施手順および内容はヘルシンキ宣言に則り,当院倫理委員会の承諾を得た後に行った.対象者には研究者が口頭および書面にて研究目的,方法,利益や不利益,プライバシー管理につき説明の上,同意を得た後,同意書に署名を頂いた.【結果】 運動療法介入時における低血圧などの有害事象は発生しなかった.重回帰分析を行った結果,%CGRの傾きは透析前のアルブミン,尿素窒素,リン,ナトリウム,年齢,カルシウムの6項目の値で予測することができた(R2=1.00). 標準偏回帰係数は,それぞれ1.058,1.214, 0.209,0.679,1.551,1.980であった.【考察】 本研究において,非常に高い決定係数の重回帰式を作成する事ができた.また,標準偏回帰係数の結果より,ナトリウムやカルシウムが%CGRの傾きに大きく影響していた.ナトリウムやカルシウムが大きな影響を及ぼすのは筋肉に関わる電解質の影響を示唆するものだと考える.【理学療法学研究としての意義】 現在,透析中の運動療法介入について,どのような患者が対象となるかという視点についての報告は非常に少ない.本研究の結果を用いることによって,透析前のデータのみで治療の成否が予測出来る.したがって,理学療法の介入対象または介入手法を検討する上で有用であり,理学療法学研究として意義が大きいものと考える.