抄録
【はじめに、目的】 近年がん生存率は、早期かつ適切な診断や治療技術の進歩などがん医療の発展により、世界的に増加傾向にある。がん生存者が増加する一方で、がん生存者の生活の質(Quality Of Life;以下QOL)の維持など退院後の生活状況が重要視され始めている。現在までにがん患者のQOL向上を目的に運動介入した縦断的研究は、主に国外より報告され効果が証明されている。一方国内では、がん患者の身体運動機能に関する報告は少なく、日本のがんリハビリテーション発展のためにも早急に検討すべき課題と考える。そこで本研究では、周術期消化器がん患者を対象に手術前から退院後にかけて身体運動機能測定とQOL評価を実施し、得られた各測定値の経時的変化や手術前から退院後のQOL変化と各測定時期の身体運動機能測定値の関係について予備的に検討することを目的とした。【方法】 対象者は、手術前に身体運動、認知機能に障害を認めず日常生活が自立し、手術後経過良好であった周術期消化器がん患者28名(男性16名、女性12名、平均年齢59.0±10.8歳)とした。対象者の手術部位は胃8名、結腸10名、直腸5名、肝臓5名であり、平均在位日数は15.0±3.3日であった。身体運動機能測定とQOL評価は、手術前(-1.6±0.9POD)、手術後(9.4±1.1日POD)、退院後(26.6±3.9POD)の3つの時期に実施した。身体運動機能測定は、等尺性膝伸展筋力(以下KEM)、閉眼片脚立位時間(以下OLS)、Timed“Up and Go”test(以下TUG)、6分間歩行距離(以下6MD)の4項目とした。KEMは、ハンドヘルドダイナモメーターを使用し、ベルト固定法で2回行い最大値(kgf)を体重で正規化(%)した。OLSは、測定姿勢を任意とし、閉眼での片脚立位姿勢の保持時間を最大値60secで1回測定(sec)した。TUGは、高さ40cmの椅子に着座した状態から3m先の目標物を回って再度着座するまでの時間を最大速度で2回行い、最小値を測定値(sec)とした。6MDは、 6分間可能な限り歩行できる距離(m)を歩行用距離測定器で1回測定した。QOL評価には、SF-36v2アキュート版を使用し、対象者の健康関連QOLを評価した。対象者は、手術前から退院後のSF-36各下位尺度の変化から維持・向上群、低下群2水準に各々分類した。統計学的処理は、Wilcoxonの符号付き順位和検定で得られた身体運動機能およびSF-36各下位尺度の各測定値を手術前と手術後(以下A)、手術後と退院後(以下B)、手術前と退院後(以下C)の3つの組み合わせで比較した。また、Mann-WhitneyのU検定で各測定時期の身体運動機能測定値を各下位尺度変化の群間で比較した。有意水準は、全て5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は国際医療福祉大学三田病院倫理委員会に承認され(承認番号H23-05)、対象者に本研究の主旨を説明し同意を得た。【結果】 各測定値の経時的変化(手術前、手術後、退院後の各測定値を中央値で記載)は、身体運動機能ではKEM50.8%、44.7%、49.5%、OLS4.31sec、4.39sec、6.15sec、TUG5.32sec、5.50sec、5.38sec、6MD493.3m、439.5m、479.2mであり、SF-36下位尺度では身体機能(以下PF)90.0、80.0、85.0、日常役割機能(身体)(以下RP)93.7、43.8、65.7、体の痛み(以下BP)100.0、43.0、74.0、全体的健康感(以下GH)56.0、61.0、62.0、活力(以下VT)68.8、59.4、68.8、社会生活機能(以下SF)81.3、62.5、75.0、日常役割機能(精神)(以下RE)91.7、75.0、75.0、心の健康(以下MH)75.0、65.0、80.0であった。Wilcoxonの符号付き順位和検定の結果から身体運動機能はKEMのAとB、TUGのAとB、6MDのAとBに有意差を認め、SF-36下位尺度ではPFのAとBとC、RPのAとBとC、BPのAとBとC、VTのAとB、SFのAとB、REのAとC、MHのBに有意差を認めた。また、Mann-WhitneyのU検定の結果より、VT群間で手術前6MD(VT維持・改善群440.3m、VT低下群503.5m)、MH群間でKEM(MH維持・改善群57.7%、MH低下群39.0%)に有意差を認めた(各測定値は中央値で記載)。【考察】 手術前から手術後において身体運動機能は、KEM、TUG、6MDが有意な低下を認め、SF-36下位尺度では、GHとMH以外の下位尺度が有意な低下を認めた。退院後において身体運動機能は、手術前とほぼ同等まで改善を認め、SF-36下位尺度では、全ての尺度に維持・改善を認めたが、PF、RP、BP、REに手術前と比較し有意な低下を認めた。積極的な外科的治療終了され自宅復帰した消化器がん患者は、身体運動機能が手術前と同等まで改善を認める一方で、身体運動機能やADLに関連するQOLが手術前より有意に低下していることが明らかとなった。また、手術前から自宅復帰後にかけての消化器がん患者のQOL変化には、手術前の身体運動機能が関連している可能性を示唆した。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、周術期から自宅復帰後における消化器がん患者の身体運動機能とQOL変化の特徴および関係性が明らかとなり、日本のがんリハビリテーション発展の一助となると考える。