抄録
【はじめに、目的】 がん患者の「がん」治療前・治療中・治療後のリハビリテーション(以下リハと略す)において、その活動性に大きな影響を及ぼす因子として、倦怠感があげられる。がん患者の日常生活での活動量は、診断を受ける段階で診断前の20%以下に低下する、との報告もある。がん患者は、「がん」治療やその合併症で出現する、疼痛・嘔気・貧血・倦怠感・精神的要因・感染などによりさらに活動量は低下し、心肺機能や筋骨格機能の低下が生じ、廃用症候群をきたす。これらは、がん患者のQOLの低下をもたらす因子(疼痛・嘔気・貧血・感染などの身体的因子に加えて、不安やうつなどの精神的要素、さらに倦怠感・加齢)として、2011年 NCCLのガイドラインにも引用されている。この中で我々は倦怠感(Cancer-Related Fatigue:以下CRFと略す)に注目した。CRFへの対応は、直感的に“しんどい”への対策は休息であるが、適切な運動により軽快しQOLも改善するとの報告が、約10年前から欧米で多く見られる。また、臨床での実体験としても、リハ後に倦怠感が軽減するとの主観的評価を得られることがある。そこで、今回我々は、がん患者の倦怠感(CRF)と日常生活動作における活動性を経時的に評価し、倦怠感が身体活動に及ぼす影響と、リハによる影響について研究したので報告する。【方法】 (対象) 2011年6月13日 ~2011年10月31日に廃用症候群の診断でリハを開始した116例中、CRFとBarthel Index(以下BIと略す)が2週以上経過観察できた60症例を研究の対象とした。2週間以内の死亡および退院例、コミュニケーション困難例、精神疾患、全身状態不良例は除外した。対象の詳細は、年齢72歳±6歳、男性29例・女性31例、在院日数は38日±83日、リハ開始時BIは50±42点で、疾患臓器内訳は、肺9例・肝臓6例・膵臓6例・食道/胃/十二指腸6例・大腸/直腸6例・咽頭/舌6例・卵巣4例・脳4例・膀胱2例・前立腺2例・子宮2例・乳房2例・骨転移5例・その他3例(重複あり)であった。(治療方法)廃用症候群の改善およびADL機能の改善のための基本動作獲得の理学療法を施行した。(評価方法)がん患者が主観的に感じる倦怠感と日常生活動作などの活動性を評価しその関連を検討した。評価は、リハ開始時とその後2週ごとに実施した。アメリカのテキサスのアンダーソン キャンサー センターの評価表を元に、2009年(BFI:Japanese)日本語規格の簡易倦怠感調査票(CRF : Cancer-Related Fatigue)を用いた10項目の患者の主観的倦怠感を評価し、10項目の内、この24時間に感じた通常のだるさ(倦怠感、疲労感)のスコアを倦怠感の指標とした。患者の日常生活動作評価スケールにBIを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 評価にあたっては、倦怠感やADL動作評価の意義を十分説明し、同意を得られた患者に施行した。【結果】 リハ開始から2週後の研究対象症例のBIは50±42点から66±32点に改善した。倦怠感があると答えた30例の内、倦怠感が低減した症例は19例で、この内12例はリハの介入によりBIが30±39点から63±29点に改善し、2例は活動性の維持が図れた。倦怠感がないと答えた30例の内、倦怠感が出現しなかった症例は22例で、この内13例はリハの介入によりBIが40±32点から75±53点に改善し、6例は活動性の維持が図れた。60例中11例のBIで73±14点から47±14点へ低下がみられた。BIが低下した原因は、全身状態悪化症例(身体障害・精神症状の合併)と途中手術施行例の周術期の一過性の機能低下であり、全身状態の増悪症例以外はみなリハの介入で活動性が維持ないし向上した。【考察】 今回の研究結果から、全身状態増悪症例以外は、リハの介入により活動性が維持ないしは向上した結果から、がん患者に対するリハは活動性の維持・向上に有効であることが明確となった。また、活動性の維持・向上や低下には倦怠感が作用し、相互に関連性があることがわかった。欧米の文献引用の、倦怠感は適切な運動により軽快しQOLも改善するかどうかの検証は今回の研究からは明らかにならなかったが、我々も経験的に、運動後に倦怠感は軽減したとの即時的な患者の主観的評価を得ていることより、今後検証を重ねる必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の意義は、がん患者の倦怠感と活動性の関連性を明らかにし、活動性低下の予防には倦怠感の治療が重要であることと、がん患者のQOLの維持には、がん診断早期からのリハが有用であることを提言することにある。