理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
造血幹細胞移植患者に対する理学療法効果
伊藤 大亮森 信芳柿花 隆昭坪田 毅南島 大輔荒井 豊馬場 健太郎大槻 久美佐藤 房郎上月 正博
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p. Da0327

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抄録
【はじめに、目的】 最近20数年間で造血幹細胞移植(HSCT)の治療成績は格段に向上している。生命予後の延長とあわせて、疾病が身体機能に及ぼす影響の評価の重要性も増してきている。HSCT患者は疾患そのものおよび治療により数ヶ月間、活動量が低下することが多い。廃用とともに、抗がん剤による神経毒性、ステロイド剤による筋や骨の低下、萎縮も合併し、易疲労性を持ち、倦怠感を感じることが多い。本邦では、看護師が運動を勧めるなどの介入方法が多く、理学療法士による運動療法が行われている病院は少ない。海外では、HSCT後では筋力、運動耐容能が低下していることや、運動療法の効果の報告もみられるが、本邦では対照群との比較や詳細な理学療法評価で多角的に検討した報告はない。そこで、HSCT患者に対する理学療法治療(PT)の有効性を明らかにすることを目的に、当院血液免疫科に入院するHSCT患者を対象に、移植前後における理学療法評価を行い、比較検証した。【方法】 HSCT目的に当院に入院した患者(2007年6月~2011年6月)を対象に、各種評価およびPTを行った。PT実施群(17名)と対照群(10名)に分け、それぞれ移植前(平均移植前19日)と、移植後1~2ヶ月(平均移植後45日)に評価した。なお、対照群はHSCT患者への積極的なPTが導入される前(2007年6月~2008年8月)の患者であり、理学療法士によるPT実施群との比較対象とした。筋力評価として握力とBIODEXを用いた膝伸展筋力、柔軟性評価として立位体前屈、バランス能力評価としてFunctional Reach Test (FRT)、呼吸機能評価としてスパイロメトリー評価、その他、周径(上下肢)、身体組成(体重、体脂肪率)、Time Up and Go Test (TUGT) を測定した。また、運動耐容能評価として、トレッドミルによる心肺運動負荷試験を実施し、最大酸素摂取量、嫌気性代謝域値(AT)およびその時の心拍数を測定した。計測は、V-Maxスペクトラ呼気ガス分析装置とQ-stress負荷心電計を用い、Ramp負荷で行った。栄養状態評価としてアルブミン量および移植日から退院までの在院日数をカルテより記録した。理学療法は、移植前から実施し、無菌室入室中も可能な範囲で行った。ストレッチング、上下肢体幹の抵抗運動および自転車エルゴメーターをATレベルの心拍数で行った(10分~15分)。抵抗運動の強度は10回できる負荷を目安として設定した。時間はおよそ20分から40分行った。負荷量、時間、頻度は患者個々の全身状態に合わせて適宜調整した。全ての評価結果を、両群それぞれの移植前後で比較し、更に移植前後の変化率を両群で比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 すべてのプロトコールは「臨床研究に関する倫理指針」に沿ったものであり、東北大学倫理委員会の承認を得て、患者への十分な説明の後の書面での同意を得て遂行した。【結果】 握力、膝伸展筋力、全ての周径、体重、アルブミン量は両群とも移植後に有意に低下した。ATレベルの心拍数は両群とも移植後に有意に増加した。立位体前屈、FRTは対照群のみ移植後で低下した。TUGT時間は対照群でのみ移植後で延長した。また、移植前後の変化率の両群比較では、膝伸展筋力、立位体前屈、FRTにおいてPT実施群が変化率(減少率)が有意に少なかった。移植日から退院までの在院日数は、PT実施群が対照群より有意に短かった(59.3±5.5日 vs. 91.0±21.0日)。【考察】 本研究の結果から、膝伸展筋力、立位体前屈、FRT、TUGT、移植から退院までの在院日数において、理学療法の有効性が示唆された。膝伸展筋力は、下肢抵抗運動で施行したスクワットや自転車エルゴ、立位体前屈はストレッチングの影響が考えられる。また、FRTやTUGTの維持にもそれらPT効果が複合的に関与したと考えられる。移植から退院までの在院日数でPT実施群が有意に少なかったことは医療経済の観点からも非常に意義が大きい。退院は移植後の移植片対宿主病(GVHD)の沈静化や免疫機能の安定化、全身状態などで判断されるが、それらの因子にも有効な影響を及ぼした可能性が示唆される。本研究で評価した身体能力項目には、理学療法の影響の他、放射線治療、抗がん剤、免疫抑制剤、睡眠、臥床時間、GVHDなどの影響も考えられる。また、原疾患や移植形式での相違も考えられ、今後更に検討していく必要がある。更に退院後のデータの推移、変化を集積し、長期的影響も検討していく予定である。【理学療法学研究としての意義】 HSCT患者への理学療法は推奨されてはいるが、そのエビデンスが極めて低い状況にあった。理学療法の有効性を明らかにし、エビデンスを高めることは理学療法研究として極めて意義深いものである。本研究では、約4年にわたり、27名のHSCT患者を対象にし、医学的根拠に基づく評価指標を用いて多角的に評価検証し、HSCT患者に対する理学療法の有効性が明らかにされたものである。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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