抄録
【はじめに、目的】 造血幹細胞移植(以下、移植)は白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍の治療法として良好な成績を治めている。しかし、その治療過程において、原疾患に起因する身体活動量の低下、前治療としての寛解導入療法や地固め療法などの化学療法による体力低下やその副作用、移植前処置(大量抗がん剤投与・全身放射線照射)に伴う安静臥床、移植後合併症としての全身倦怠感、消化器症状、不眠、感染症、GVHDなどにより身体活動が著しく制限される。さらに、クリーンルーム内での長期間の隔離・安静により重度の廃用症候群が生じる危険性が非常に高い。当院では移植患者に対し、廃用症候群予防のためのストレッチ、筋力トレーニング、エルゴメーター、ウォーキングなどのリハビリテーション(以下、リハビリ)を実施し、身体活動量の維持・向上を行っている。しかし、運動に対するモチベーションが低下し、活動性を維持できない症例も散見する。近年、高齢者の介護予防や中高年のメタボリックシンドローム予防の分野では、身体活動量を向上させ、運動の習慣化を促進させることに運動セルフエフィカシー(以下、SE)が関連していることが報告されている。移植患者においても、身体機能・精神機能の低下、健康関連Quality of Life(以下、QOL)の低下を予防するために活動性を維持し、運動の習慣化を促すことが重要である。本研究の目的は、移植患者の身体活動量と運動SEの関連を検討することである。【方法】 対象は2006年8月から2011年8月に当院腫瘍・血液内科にて移植を受け、身体活動量および運動SEの評価が可能であった患者62名(男性37名、女性25名、移植時平均年齢46.5±13.4歳)であった。評価項目は、身体活動量の指標として、Lifecorder EX(スズケン)にて測定した歩数、運動SEの指標として、岡らの開発した運動SE、および年齢、性別とした。身体活動量は、移植前処置開始前5日および退院前5日の平均歩数の変化量を算出した。運動SEの評価は移植前処置開始前および退院時の2回実施し、その変化量を算出した。統計解析は、単回帰分析にて、身体活動量の変化量と運動SEの変化量の関連を確認した後、従属変数に身体活動量の変化量、独立変数に運動SEの変化量、移植前処置開始前の運動SE、年齢、性別を投入した重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究への参加の際には、研究の目的・方法および個人情報の保護について説明後、対象より同意を得た。【結果】 重回帰分析の結果、運動SEの変化量(標準化回帰係数 0.37, p=0.008)、移植前処置開始前の運動SE(0.04, p=0.77)、年齢(-0.04, p=0.72)、性別(-0.30, p=0.02)であり(R2=0.21)、運動SEの変化量と性別に有意差を認めた。【考察】 本研究の結果より、移植患者の身体活動量を決定する因子として運動SEが挙げられた。地域高齢者や中高年を対象とした先行研究では、運動SEは身体活動量や運動習慣と関連があることが報告されており、移植患者のような身体的・空間的に活動性が制限されている対象においても、運動SEの向上が身体活動量の向上に関連していることが示唆された。移植患者の廃用症候群予防には身体活動量を維持・向上させ、運動の習慣化を図ることが重要であることから、リハビリ介入を行う際には運動SEのような心理的側面を考慮したアプローチが必要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 治療前後・治療中のがん患者において、身体活動量を維持し、身体機能、精神・心理機能、QOLを維持・向上させることは、治療成績や予後に影響を与えるだけでなく、社会復帰や余暇活動、さらには人生そのものを左右する非常に重要な要因である。本研究の結果より運動SEの重要性が明らかになったことは、がん患者に対してアプローチする際の一助となるものと考える。