抄録
【はじめに】 造血器のがん細胞は,固形がんと比較して,常に増殖しているため,抗がん剤治療が第一義的に行われる.特に抗がん剤での治療は,がん細胞の薬物抵抗性クローンを考慮して,複数の抗がん剤を使用する多剤併用療法となり,その副作用として嘔気,嘔吐,骨髄抑制,末梢神経障害などが生じ,身体活動が低下する.また,治療期間も数週間に及び廃用症候群に対する理学療法の重要性は非常に高い.今回,我々は非ホジキンリンパ腫(以下NHLと略す)患者に対して,抗がん剤治療実施前後に体力測定を行い,理学療法を施行した群と非施行群で,抗がん剤治療における理学療法の有効性を検討した,【対象】 対象は,入院して抗がん剤治療を受けたNHL患者,男性11名(69.8±8.6歳),女性9名(70.3±15.4歳)の20名であった.治療はNHLの標準治療であるR・CHOP療法(11名)とR・THP-COP療法(9名)が施行された.さらに,対象の理学療法施行群は11名,非施行群が9名群であった.【方法】 抗がん剤治療期間における1コース目,3コース目,6コース目の治療前後に体重,筋力(握力・膝伸展筋力),開眼片脚立位,血液データを測定した.筋力測定は左右の平均値を記録とした.開眼片脚立位は左右の平均値を記録とし、上限を60秒とした.各コースの前後の値を変化率に換算し郡内をFrideman検定後,Steel-Dwass法にて解析し,群間をMann-Whitney検定にて解析した.【説明と同意】 対象者には本研究の目的・方法,治療中に行う体力測定のリスクや個人情報の保護,結果の公表に関し文章および口頭にて説明し同意を得た.【結果】 群内比較では理学療法非施行群の体重変化率(1コース治療前55.8kg~6コース治療後53.3kg 変化率-4.4%),握力変化率(1コース治療前29.0kg~6コース治療後26.1kg 変化率-8.8%),膝伸展筋力変化率(1コース治療前25.9kgf~6コース治療後23.1kgf 変化率-9.3%)にそれぞれ有意な低下を認めた.理学療法実施群は体重変化率(1コース治療前54.0kg~6コース治療後51.7kg 変化率-4.3%),握力変化率(1コース治療前22.4kg~6コース治療21.8kg 変化率-2.7%),膝伸展筋力(1コース治療前22.6kg~6コース治療後20.1kg 変化率-7.5%)に有意な差は認められなかった.群間比較では各データについての有意な差は認められなかったが,理学療法非実施群は実施群に比べ握力や膝伸展筋力,開片脚立位などの体力の項目は低下傾向であった.また,血液データは理学療法実施の有無に影響は認められなかった.【考察】 群間比較から,理学療法の介入が筋力低下防止に効果的であることが示唆された.また,抗がん剤治療による体力低下は,理学療法の介入の有無にかかわらず生じる可能性があり,今後,有酸素運動およびレジスタンストレーニングを複合した理学療法を考案していきたいと考える.体重は副作用による嘔気や嘔吐,味覚障害の影響から食事量も減少し,その結果全体的に低下傾向であったと考えられる.バランス能力は,抗がん剤の副作用による末梢神経障害の影響から,差が出るものと考えていたが,年齢や基のデータの影響が大きく差は認められなかったと考えられる. 【理学療法学研究としての意義】 がん患者への理学療法が算定されるようになったが,実際の臨床での処方は,体力の低下やADL障害が認められてから行われているものと推測される.当院は医師と連携し,大部分の造血器腫瘍患者に対し理学療法を実施している.がん患者へのリハビリテーションは,これからエビデンスを構築していかなければならない領域である.特に,予想される廃用症候群を防止するという観点から,理学療法効果に関する研究は意義があるものと考える.