理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
上肢筋緊張の違いからみた長期人工呼吸器管理患者に対する呼気介助の圧迫強度が一回換気量に及ぼす影響
森野 陽高橋 尚明堀田 麻実子石合 純夫
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p. Da0976

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抄録
【はじめに、目的】 長期人工呼吸器管理患者の呼吸管理において、気道クリアランスの改善、無気肺の予防は重要であり、呼吸リハビリテーション手技の一つとして、呼吸介助はしばしば行われる手技の一つである。長期人工呼吸器管理患者は胸郭の可動性の低下および骨粗鬆症による骨折のリスクも高いため、どのような患者に効果的かどうかを判断した上で実施することが望まれる。しかしながら長期人工呼吸管理患者の呼吸介助についての報告はほとんどない。そこで今回、臨床的に判断することが容易である上肢の筋緊張に注目し、長期人工呼吸管理患者に対し呼気介助の圧迫強度が一回換気量(VT)に及ぼす影響を比較検討したため報告する。【方法】 対象はSIMVモードでの人工呼吸器管理患者18名。年齢69.7±15.9歳。人工呼吸器装着期間803.4±745.3日。Modified Ashworth Scale(MAS)による上肢筋緊張についてMAS0~2を低MAS群(n=10)、MAS3~4を高MAS群(n=8)とした。姿勢は褥瘡予防目的でとられることの多い30度側臥位とし、胸郭の圧迫は上側に位置する一側胸郭をHand Held Dynamometer(HHD;μTasF-1)を用いて、胸郭の運動方向へ圧迫強度が2kgf、4kgfとなるよう呼気に合わせ圧迫した。実施順序は2kgf、4kgfの順とし、人工呼吸器のモニタ画面をビデオカメラで撮影し、それぞれの条件おいて人工呼吸器と同調し圧迫条件を満たした10呼吸の測定値を読み取り、最大値、最小値を除く8呼吸の平均値をVTとした。呼気介助時VTと安静時VTの差を安静時VTで除した値をVT変化率とした。それぞれの実施は十分な休息をとり、実施後は安静に戻ったのを確認した後2分以上の休息入れた。実施者は臨床経験11年のPT1名とした。なお本研究で用いたHDDを用いた呼気介助の検者内再現性については、級内相関係数が0.986と良好な値を示すことを事前に確認した。それぞれの圧迫強度における低MAS群と高MAS群のVT変化率の比較にはMann-Whitney の U検定を、またそれぞれに関連する要因についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。なお統計処理にはDr.SPSS 2 for Windowsを用い、いずれも有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者および代諾者には書面にて本研究の目的や方法、リスクなどを説明し、自由意思により承諾を得た。また本研究は特定医療法人平成会井上病院の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 VT変化率について圧迫強度2kgf時には低MAS群は高MAS群より有意に高値を示したが(p<0.05)、圧迫強度4kgf時には両群間で有意差を認めなかった。圧迫強度2kgfと4kgfの変化率については、低MAS群:4kgf変化率=1.53×2kgf変化率+10.15(R2=0.76)、高MAS群:4kgf変化率=1.93×2kgf変化率+3.89(R2=0.55)とそれぞれにおいて関連を認めた。またそれぞれに関連する要因については、低MAS群においてはどちらの圧迫強度においても変化率とBMIに負の相関を認め、高MAS群の4kgf変化率と動的肺コンプライアンスに正の相関を認めたが、人工呼吸器装着期間、人工呼吸器の設定、安静時の胸郭拡張差、安静時VTとは有意な相関を認めなかった。【考察】 神経学的に考えた場合、脳の器質的な損傷による上肢の筋緊張が高いということは、同時に胸郭を形成する筋群の筋緊張も高いと推測できる。そのため低MAS群においては軽い圧迫で胸腔内圧を高めたのに対し、高MAS群においては軽い圧迫では胸腔内圧を高めることができなかったと考える。本研究結果は、上肢の筋緊張の低いものは軽い圧迫でも換気量の改善を得られることを示唆しており、上肢の筋緊張の高い場合は動的肺コンプライアンスが換気量の改善の予測として成り立つ可能性がある。本研究には考察を行う上で、以下の3点を考慮する必要がある。1点目に対象者数が少ないことである。2点目は本研究は横断的研究であり、因果関係を明らかにすることができない点である。3点目は呼吸介助手技は圧迫の力だけでなく、人工呼吸器のモード、圧迫する部位、介助の方向、タイミングという要素の影響も受けるということであり、今回の結果を一般化するには注意が必要である。【理学療法学研究としての意義】 長期人工呼吸管理患者に対する呼吸介助の介入効果について、上肢筋緊張は有用な指標となることが示唆された。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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